天竜川では、戦後に多くのダムが建設された結果、土砂や動物の移動が妨げられてきました。また、砂利採取や治水目的の掘削によって河床が低下し海岸が後退しました。このような河川や海岸の環境劣化を、今後どのように修復・再生・保全していくかが国土管理上の重要課題になっています。
これまでの環境保全では、防災対策と対立する図式で捉えられた結果、洪水・地震・津波などの自然災害はあくまで防ぐべきもので、これらを役立てる発想はありませんでした。ところが自然災害によって生じる土砂の運搬や地形の形成は、実は人類にとって不利益なことばかりではないのです。たとえば、山から海岸へ土砂を運搬するには獏大なコストと労力を要しますが、崖崩れ・洪水・高波はこれらの仕事を一気に成し遂げてくれるというように。このような自然災害の働きを活用する技術は、未だ研究開発が必要な段階にあります。
自然災害と人間社会の存続は相反するものではありません。“自然が暴れることを許容する余地を残すこと”によって“大きな災害を防ぎつつ自然の恵みを持続的に享受すること”が可能になります。このような社会を実現するために、“災害を防ぐこと”以上に“自然の恵みを活かすこと”を私たちの価値観として主流化することが必要なのです。
京都大学防災研究所水資源環境研究センター准教授
竹門康弘