▲この日、同会からは代表世話人の宇佐見氏、事務局の野呂氏を始め8人のメンバーが参加。中には幼少に建設中の佐久間ダムを見学した経験のある会員も。
中部の環境を考える会は「かけがえのない地球を守るという観点に立って、中部地方の自然・社会・歴史・文化など人間の生活をめぐる、様々な環境問題をそれぞれの立場で考え、研究し、交流する場としたい」という主旨の下、1982年に結成された団体です。
現在、同会には中部地方の環境問題に関心をもつ研究者、弁護士、医師、ジャーナリスト、市民約250名が所属。“考える会”という名称の通り、様々な分野の人々による知識を持ち寄って、環境問題に対する見聞と理解を深めて行くネットワークです。また、中部地方や日本国内だけではなく、世界規模の環境問題にも意識を向け、イタリアや中国等の海外視察を実施する等、積極的な活動を行なっています。
この日、村上教授の紹介によって研修会として佐久間ダムを訪れた同会のメンバーも学識経験者や法律家がおいでで、これを迎えた天竜川漁協と電源開発のスタッフによる河川環境対策への取り組みや現状報告のブリーフィングに対し、非常にアカデミックな理解を示されると同時に専門的な質疑応答も飛び交いました。
最後に挨拶をした平野国行天竜川漁協組合長の「同会のお知恵を拝借して、さらなる活動内容の充実を図りたい」という言葉通り、同会における天竜川に対する関心の向上によって、より大きな環境ネットワークへの広がりを期待させる有意義な交流となりました。
▲ブリーフィング後は佐久間ダムを見学。ダム内部を降下し、減勢池から高さ150mの導流壁を見上げる。
カリフォルニア大学バークレイ校のマチアス・コンドルフ(Mathias Kondolf)教授と京大防災研の角 哲也教授のチームが佐久間ダム〜天竜川河口までの天竜川を視察しました。
2016年6月、世界的に有名な地形学者でもあり、ダムの堆砂によって下流河川が粗粒化し河床低下する現象を『Hungry River』と名付けたことでも知られている、米・カリフォルニア大学バークレイ校のマチアス・コンドルフ教授が来日されました。教授の指導の下で実施されている、カリフォルニア州トリニティー川のルイストンダム下流で実施されている「土砂還元による自然再生事業」は日本各地のダム下流でお手本となっており、この機会にコンドルフ教授に天竜川の佐久間ダム,秋葉ダム,船明ダムの下流域の環境や土砂還元の現状を観ていただき,意見交換することを目的として、2日間に渡るこの視察が計画されたのです。
初日は天竜区船明にある和食割烹でアユやサツキマスなどの川魚料理に舌鼓を打ったあと、県道が走るダム天端部から船明ダムとその下流域の地形などを視察。(写真:扉)漁協での概要説明を終えて、昨年10月にアユの産卵床造成を目的に湧水瀬をつくる実験を行なった15km砂州のワンドに移動しました。湧水瀬は造成から8か月経っていましたが,アユの産卵が確認された軟らかい河床の流れがそのまま維持されていて、この湧水の流れる河道の造成は、アユに限らず天竜川の生息場を改善する手段として有効であることが確認されました。
▲湧水が湧く様子をご覧ください。
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翌日は、まず天竜川河口砂嘴の上を先端まで行き、ドローンを使うなどして地形観察を行ないました。この日は天竜川漁協、電源開発(株)、浜松国道事務所のスタッフも同行。現場での意見交換によって生まれるコミュニケーションは、認識の共通部分の確認やその理解域を大きく拡げてくれます。コンドルフ教授は、現場だけでなく移動中の車中でも絶えることなく質問を繰り出され、気がつけば皆が夢中になって議論を繰り広げているようなこともしばしば。ちなみに河口に関しては、「河川からの土砂供給は、砂嘴の発達と河口閉塞にもつながるため問題視されがちだが,大量の土砂が移動するような洪水時には,砂嘴の土砂も一掃されてしまうので問題はない」とのことです。
この日は河口から上流の佐久間ダムに向かって川沿いに北上。川沿いの景色が短時間で変わっていく中で、コンドルフ教授は雲名の吊り橋や龍山橋から山間部の天竜川の地形を確認し、欧米の長くて川幅の広い河川とは異なる、日本独特の短くて狭く流れの急な河川の描く地形をカメラに収めたり、角教授や竹門准教授、電源開発の喜多村氏の解説を熱心に耳を傾けていました。
龍山の国交省による置き土実験現場では、実際に河川敷まで降りて、置き土の方法や経緯、状況の分析、土砂の粒径について確認しました。ここでは河床の粒径は置き土地点では改善が見られたものの,その効果は局所的であることから総量がまだまだ不足していると評価されました。
また、秋葉ダム湖には様々な粒径の土砂が堆積しており,場所によってはアユの産卵床に適した粒径の土砂も溜まっていることが判明。しかし,佐久間ダムも含めた長大な湖を超えて上流の土砂を下流まで運搬する手立てが大きな課題であり、船か陸路か鉄道かなどの意見が交されました。
河口を出発してから約3時間。佐久間ダムに到着した一行は佐久間ダム電力館を訪れ、遅めの昼食を取ったあと、展示室の床一面に貼られた天竜川の航空写真で、改めて佐久間ダムからの約80kmの天竜川流域の地形を確認。電力館の展望台から佐久間ダムサイトを一望したあと、「中部の環境を考える会」と同じ行程で佐久間ダム内を見学して2日間に渡る視察を終えました。
最後に、「天竜川などの日本の事例について強い関心を持った」というコンドルフ教授は、ダム下流河川の土砂還元の環境改善効果を米・カリフォルニアのトリニティー川やサクラメント川の事例と比較考察する研究計画についても言及され、その結果,京都大学防災研究所角研究室は、今年度の日本学術振興会科学研究費の助成を受けることとなり,角研究室のメンバーが2017年8月にトリニティー川の自然再生の現状の調査に渡米することが決まりました。