天竜川天然資源再生連絡会シンポジウム2017 天竜川の天然アユ再生への道程

2017年9月3日、静岡県浜松市のアクトシティ浜松で『天竜川天然資源再生連絡会シンポジウム2017』(天竜川漁協、電源開発主催)が開催されました。2011年に活動を開始した再生連絡会の、ここまで6年間に渡る活動内容と、今後の展望が各関係者より報告され、また官公庁・自治体の参加もあり、今後の天竜川における環境保全と再生に対する一層の努力を誓いました。

  • たかはし河川生物調査事務所代表 高橋勇夫
  • 京都大学防災研究所水資源環境研究センター 竹門康弘
  • 中部大学応用生物学部環境生物科学科 村上哲生
  • 電源開発(株)茅ヶ崎研究所 喜多村雄一
  • 国交省浜松河川国道事務所 尾藤文人、静岡県水産技術研究所 鈴木邦弘

このシンポジウムでは、資源が減少する天竜川の天然アユの再生をテーマに活動する再生連絡会のメンバーである、天竜川漁協、3名の学識経験者、そして電源開発が、各々の取り組みと現状、そして将来的な可能性を語っています。 今回は再生連絡会のオブザーバーとして、国土交通省中部地方整備局 浜松河川国道事務所と、静岡県経済産業部水産資源局からの参加もあり、再生連絡会の活動に対する評価を示すと同時に、環境保全と再生に関しての取り組みの内容を講演。 また、漁業関係者や利水者を中心とした来場者からも、積極的な質疑応答が行なわれました。このように “それぞれの立場を超えて”その知恵と力を結集し、ひとつひとつの活動をより大きな流れへと収束させる機会として、シンポジウムは盛会のうちに終了。再生連絡会は新たなフェイズへと踏み出そうとしています。

高橋勇夫 たかはし河川生物調査事務所代表農学博士

1996年から続くふ化仔魚の流下量調査(秋に産卵場でふ化し、海に下っていく仔魚の数を夜間調査)と2005年から始まった遡上稚アユ調査(週に一度、春に定期的に地引き網で稚アユを捕まえ遡上量を推測)や、毎年6~9月に定期的に複数回行なっている「アユのハミ跡調査」を通して、天竜川のアユの流下~遡上の状況、春~秋の河川生活期における天竜川でのアユの生息状況の傾向を分析している。また、それと同時に他河川との比較を通して、天竜川の濁りがアユにもたらす影響やアユを取り巻く天竜川の抱える問題を浮き彫りにし、今後の、アユ資源の回復を目指すシナリオを提案する。

竹門康弘 京都大学防災研究所水資源環境研究センター准教授理学博士

天竜川の水質改善と県の海岸管理からも要望のある土砂供給をテーマに現場での実験や調査分析を重ねている。上流からの土砂供給が減ることは、河床を下げるだけでなく河床を堅くなる現象も引き起こし、これがアユが産卵しにくい状況に拍車をかけている。(注:アユにとっての繁殖の好条件は湧水と砂利や土砂が比較的ルーズに乗る隙間のある柔らかい瀬)かつては頻繁に4000トン級以上の増水があり、それが河床を大きく動かして柔らかい瀬を形成していたが、治水効果もあって現在では2000トン級、年度によっては500トン級以下の増水がほとんどとなり、それがシルトの沈着にも影響している。アユの繁殖環境改善のためには動く土砂の供給がカギであり、それによる河床環境と水質条件の改善が必須であるが、実験と並行して、たとえばどのような量、質の土砂供給が理想的な波長の短い砂州(=蛇行の多い川)を形成させ湧水を増やすかなどの環境条件をモニタリングすることが、今後の課題となっていく。

村上哲生 中部大学応用生物学部環境生物科学科教授理学博士

アユの餌となる付着藻類が天竜川には足りているのか? という視点から、天竜川におけるアユの不漁の原因を探っている。長野県の諏訪湖を水源とする天竜川には、静岡県内に上流から佐久間ダム、秋葉ダム、船明ダムという3つのダムがあり、発電や治水など生活に欠かせない存在になっているという環境下で、現実的にこれらのダムとの共存を前提にどのような方法で天竜川の再生が可能か、を天竜川漁協と調査している。今回のシンポジウムでは、この6年間の付着藻類調査によって見えてきた天竜川ならではの特徴や付着藻類の成育パターンを紹介し、付着藻類の成育環境の改善のために始まっている「河床洗浄」の実験・調査を通して、今後の更なる付着藻類の成育環境の改善を目指していく。

喜多村雄一 電源開発(株)茅ヶ崎研究所専任部長工学博士

天竜川天然資源再生連絡会の目的は、天竜川の河川環境の保全・再生・創出であり、具体的には独立資源の開発と河川環境の改善である。平成27年度からは再生連絡会の活動第二段階として、アユの生息環境にネガティブな影響を及ぼす要素を取り除き、生産性を上げるための方法論や対策の検討と実行を進めてきた。付着藻類と河川環境の関係性、アユが必要とする河川の物理的な環境の保全・再生など、魚が元気に育つ環境を具体的に創成するための技術や工夫はどんなものか。その内容は河川環境に関する調査、保全対策に関する検討、情報発信といった大きなテーマがあるが、河川事業者の立場から河川環境保全の検討および技術開発を促進する。

尾藤文人 国土交通省中部地方整備局浜松河川国道事務所所長

国交省としては「河川環境の整備と保全」について『持続性ある実践的多自然川づくり』をテーマに様々な取り組みを行なって来た。基本指針の解説書である多自然川づくりポイントブックの発刊、様々な情報を網羅した河川環境データベース(http://mizukoku.nilim.go.jp/)の公開、河川生態学術研究会の発足、全国多自然川づくり会議の開催等を実施し、持続性・将来性を考慮した方策を推進。浜松河川国道事務所としては、『ミズベリング遠江』によって、河川空間を活用した地域活性化に取り組んでいる。ミズベリング遠江には、多くの地元企業が参画しており、企業と団体や流域住民とのマッチングの場となっている。また、水防災意識社会再構築も推進しており、スマートフォンを活用したプッシュ型の洪水予報の配信など住民目線のソフト対策への取り組み、洪水被害の記憶の伝承と防災意識の向上を目的とした冊子『天竜川 大洪水の記憶』のとりまとめ等を行なってきた。

鈴木邦弘 静岡県水産技術研究所富士養鱒場主査

同じ静岡県下を流れる富士川も天竜川に類似した問題(アユ資源低迷、濁り、横断物)を抱えており、ここでの県水産資源課としての取り組みを紹介。河口から約4.5km地点にある「四ヶ郷堰魚道」の実態調査は、民間企業のCSR活動の協力を得て、地元漁協と静岡県で2015年に実施された。構造物・河川状況、遡上状況を調査した結果、当該魚道がほとんど機能していない事が判明。この事実を深刻に受け止めた漁協や地元マスコミが牽引する形で、関係機関(水産、土木、農林、市町等)と情報共有する「四ヶ郷堰魚道評価委員会」が発足。富士川のアユ資源回復への施策に関する具体的提案が始まっており、今後の活動展開に期待が集まっている。