天竜川河川環境講演会 2012年10月14日

天竜川天然資源再生連絡会は河川全体の環境保全を目標に、「付着藻類調査・現存量(生産性)評価」、「産卵床調査・創出方法」、及び「情報発信」の、3つのテーマに関わる活動を行なう。今回は、簡易的な調査技術、調査結果の分析方法、現地実験、及び新しい河川環境の評価方法について紹介する。

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はじめに

 貯水池堆砂、及び濁水長期化等による河川環境の変化は、国内外を問わず水力発電所が直面している長年の課題である。これまで、貯水池における様々な対策が提案されているものの、現在もなお課題を解決するに至っていない。

 一方、平成23年の台風・集中豪雨の頻発により、流域、海域も含めた広範囲における自然環境や生態環境の変化に伴って、河川環境への影響も大きく変化している。このため、従来とは異なり、貯水池だけではなく流域を含む河川全体の環境保全が求められている。

「天竜川天然資源再生連絡会」は、平成23年度の準備会の議論を経て、平成24年度より天竜川の河川環境の保全・再生(魚類資源の回復、河川環境の改善等)を目的に設立された。この連絡会は、天竜川漁協・学識経験者・利水者が、それぞれの立場を超えて河川環境に関する治験や技術の情報交換、及び必要となる技術開発や協力を行う形で進めている。

 平成24年度は、天竜川を対象として「付着藻類調査・現存量(生産性)評価」、「産卵床調査・創出方法」、及び「情報発信」の、3つのテーマに関わる活動を行なう計画である。本講演会では、天竜川再生に関する河川環境の原著調査、及び評価技術について報告する。

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河川付着藻類の現地調査

 河川環境は、河床材料の移動や粒径変化、あるいは水質等の物理的な変化に伴って、魚類の餌となる河床材料に付着している藻類の状態も変化し、魚類の生産性も変化する。

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 付着藻類の調査は、河川の生態環境や生産性の状況を把握するための大きな手がかりとなる。一般的に、付着藻類を調査する方法は、礫から一定面積の付着物を剥離・採取し、その乾燥重量、クロロフィルa量、及び顕微鏡による藻類の種同定と細胞数の計数等の分析が行われる。しかし、河川の生態環境を把握するには、下流域までの長い流路を対象とする必要があり、一般的な方法では時間・空間的な制約や費用も大きなものになる。

 このため、簡便な付着藻類の調査技術が求められる。連絡会では、付着藻類の色彩に着目し、波長別吸光度に基づく、付着藻類群集の量・組成を推定する簡易手法について、現地調査より検討しており、その状況について報告する。


●付着藻類調査の手順はこちら
●調査の模様はこちら

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アユの漁獲量に着目した分析

 生態環境を含む河川環境を評価する手法としては、IFIM、IBI等が提案されている。これらの評価手法は有効な方法であるものの、対象となる河川における詳細な調査を必要とするか、必要とされる調査資料の有無によって適用可能な河川が限定される。

 一方、アユは全国の河川に分布する、河川における典型的な魚類であり、中流域の河川生態環境を代表する魚類である。これまで、多くの河川において長期間のアユ漁獲量や関連する各種環境に関する調査が実施され、公表データとして蓄積されている。この調査結果に基づいて、アユ漁獲量と環境因子の関連性を分析し、河川生態系の評価指標を見出すとともに、天竜川の河川環境の位置づけと、変化について検討を行っている。

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現場試験と解析検討

 対象としている河川環境の調査・分析を行った後、可能性のある対策技術について、実際に現場実験を行うことは重要である。対策技術の検討では、模型試験や高度な解析的な検討も可能ではあるものの、やはり、現場実験にはかなわない。

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 天竜川の秋葉調整池内では、自立式汚濁防止膜の試験を行った。現地実験では、流速測定の結果、設置場所の下流川の約100mの範囲では、自立式汚濁防止膜の高さと同程度の流速の低減域が確認された。このため、水道的には汚濁防止によって、防止膜背後の流速の低減域での沈降作用が期待できる結果であった。

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マイクロアレイによる評価

 DNAマイクロアレイは。スライドガラスの上にDNAの断片を載せたもので、様々な物質の生物への影響を遺伝子レベルで把握し、従来法に比べて高精度かつ短時間で解析、評価することが可能となる。現在、大学や公的研究機関等の研究者によって、各種化学物質のリスク評価の一環として使われている。

 今回、濁水影響評価の新しい手法として、佐久間ダムの流砂促進前、及び流砂促進中における河川水により試験を行った。試験はメダカのマイクロアレイを用いて、河川水による遺伝子発現解析を行い、遺伝子レベルでの影響について調べた。その結果、メダカの濁水暴露においては遺伝子レベルの影響は少ないものであった。今後は、アユ(稚魚および成魚)のDNAマイクロアレイの制作と、このアレイを使った遺伝子影響評価手法を検討している。

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おわりに

 本講演会では、簡易的な調査技術、調査結果の分析方法、現地実験、及びDNAマイクロアレイを使った新しい河川環境の評価方法について紹介した。天竜川再生を成功させるには、天竜川に関する情報を今後も収集・蓄積し、天竜川を良く知ることが重要である。そのうえで、実施可能な対策を実施することが有効となる。

 再生を持続的に行うには、天竜川漁協・学識経験者・利水者のみならず、地域の関係者の参画が欠かせない。地域の関係者が、日常生活の中で天竜川の環境について意識することこそ、持続可能な再生が可能と考えられる。地域の関係者の理解と協力を得ることで、限られた関係者による、限られた価値観の中での再生でないように進めることが重要である。

 再生連絡会では、情報発信の重要性を考え、天竜川の環境保全に係る情報、技術、及びその他の情報をホームページによって、様々な関係者へ発信する計画である。