ダム建設や砂利採取等が原因とされる流出土砂の不足による河床の低下、あるいは濁水の長期化等、河川環境変化の原因と対策について考察。とくにアユの産卵床に適した河川環境条件を研究した結果、産卵床には河川軟度と河川間隙水の溶存酸素濃度の、双方の値が高い場所が適していることがわかった。
天竜川では、治水、利水、水力発電などを目的とする多くのダムが建設された結果、本川の土砂や回遊性生物の移動が妨げられてきた。また、天竜川下流域では、これらに加えて、昭和20年代以降砂利採取が行なわれた。さらに各支川で砂防堰堤の建設や河川改修が行なわれたことも、河道への土砂供給量の減少に結びついた。
これらの影響によって、天竜川の船明ダムより下流では、著しく河床が低下し、河川敷の樹林化や礫河原の減少などを引き起こしている。また、上流のダム貯水池に滞留した濁り成分が増水後にも流出する「濁水の長期化」も、河川環境にさまざまな問題を引き起こしている。
本講演では、天竜川のこのような河床環境変化について、アユなどの魚類や各種水生昆虫の生息場の観点から現状を示すとともに、河床環境劣化の原因と対策について考察する。
とくにアユの産卵床に適した河川環境条件をテーマとして、好適な産卵床が形成維持されるために必要な条件について研究した結果、アユの産卵床は、河川軟度と河川間隙水の溶存酸素濃度の双方が高い瀬頭が適していることがわかった。
河床が柔らかいことは、アユが産卵床を造る際に石礫を動かすために必要であり、溶存酸素濃度が高いことは卵の生存率を上げるために役立つと考えられた。瀬頭は河川水が河床間隙に浸透していく場所にあるため、いずれの瀬でも溶存酸素濃度が高い傾向にあったが、河床軟度については、瀬頭よりも瀬尻のほうが柔らかい場合が多かった。
よって河床軟度の高い瀬頭が多く存在することがアユの産卵にとって好適なことが明らかになった。これらの結果から、現在の天竜川では、瀬頭が固くなっていることがアユの繁殖にとってマイナスになると考えられる。これは天竜川では瀬尻の深瀬で産卵する傾向にあることの理由かもしれない。
瀬頭が固くなる原因として、土砂供給が少なく、河床の撹乱頻度が低いことがあげられる。したがって、天竜川の河床環境を改善するためには、河床を動く土砂量や撹乱頻度を増加させることが必要である。また、アユの産卵床環境として好適な石礫分を多く供給していくことも必要であろう。