モニタリング調査の代表的な2例。
「ふ化仔魚の流下量調査」は、秋に産卵場でふ化し、海に下って行く仔魚の数を夜間調査して推定する。
「遡上稚アユ調査」は週に1回、定期的に地引き網で稚アユを捕まえ、その多さから遡上量を推測する。遡上数その物を調べるものではない。
流下量に関しては、2004年級群までは3年に一度高い年があった。2005年から3年間、流下量が高い年が続いたのは、2005年の産卵場の造成など、漁協の保全対策効果が出たものと思われる。2008年級群以降、2015年級群まで低水準で推移したが、突然、2016年は65億尾を記録。
遡上量に関しては、2016年級群のデータは過小評価で、実際は近年稀に見る遡上数を計上した。次に、流下量が多いにも関わらず遡 上量が激減した2007年級群を分析してみる。
※年級群…
ふ化する秋から遡上する翌年春にかけての期間のアユを指す。例えば、2016年級群は2016年の秋にふ化し、2017年に遡上してきたアユのこと。
流下量が多ければ遡上量が多くなる傾向を示しているが、2007年級群だけはその傾向から大きく外れて異常値を示していることがわかる。この年、海域へ流下後に大量死したということはわかったが、その原因はわからない。海域に棲み辛いいくつかの要因があったと推測される。
考えられる原因は2つ。
1.天竜川の場合は、河床がシルトや粘土質のもので固められる(アーマー化)ため、産卵環境が非常に悪くなっている。もしくは産卵まではたどり着いても、無効な産卵で終わってしまうことが多くなっている?
2.遡上してから産卵までの間の河川生活期に死亡してしまう?
次に示す理由(アユの生息状態に及ぼす濁りの影響)から相対的に後者の影響が大きいと思われる。
毎年、6~9月にハミ跡調査を行なっている。直接目視でアユの数を調べることができれば理想的だが、天竜川の場合、濁りがあるので難しい。→参照「アユ分布調査2016」
左のグラフは高知県で調査した「アユの生息密度とハミ跡の関係性」を示したもの。右図は天竜川での調査地点。
※ハむ…
アユが河床の石に付着した餌となる苔を食べること。その食べた跡を「ハミ跡」という。ハミ跡を調べればアユの多さがだいたいわかる。
天竜川は濁っていることが多いため、2010年以降、複数回の調査ができたのは2013年、2015年、2016年の3回のみ。
■2013年…少しづつハミ跡が減っているが大きな変化がない。
■2015年…6月にいい結果が出たものの、濁りのあった7月を挟んで8月はハミ跡がほとんど見られない。アユが大きく減耗した年であることがわかる。
■2016年…当初からハミ跡がそれほど多く見られず徐々に減っているが、4カ月の間、2013年同様、大きな変化がなかった。
左のグラフから、年によって河川生活期におけるアユの減少パターンが異なることがわかる。
その原因は川の濁りと関係がある?これは、今年5月~10月に、高知県奈半利川での濁りと減耗率の関係を調べた結果。平均濁度が高くなれば、その間の減耗率が上昇し、濁りが長引けばアユが死にやすくなる傾向があることがわかる。
天竜川でも同じようなことが起きているのでは?
漁協による2013年、2015年、2016年の透視度の調査。水色部分が多ければ透視度が高く、少なければ濁っている。
2013年はほとんど濁りがない。
2015年は7月以降濁りが長期化。8月中旬に一度盛り返すが、以降好転せず。
2016年は5月に一度濁りが出るが、以降9月にかけてほとんど濁りが出なかった。
このグラフから、8月にハミ跡が極端に減った2015年は、7月から8月にかけて濁りが長期化していることがわかる。
一番上の四国内河川でのアユの肥満度(15〜17)を標準と考えると、減耗率の高かった2015年の天竜川のアユの肥満度は、特に船明ダムから下流は肥満度のピークが13と、標準よりもかなり痩せていることがわかる。
この調査をずっと続けているが、この現象は天竜川では頻繁に起きている。濁りによってコケ(付着藻類)の生育状態が悪くなり、十分な栄養が取れなくなってアユが痩せ、この栄養状態の悪さが潜在的にアユの減耗率が高くなる要因になっている。