アユの餌は足りているか?

アユの不漁の原因をアユの餌の面から分析。天竜川ではアユの餌となる付着藻類の成育がよくないことが判明。 濁りなど天竜川ならではの特徴を把握する。付着藻類の成育パターンにも天竜川ならではの特徴がある。 付着藻類の成育環境改善のために、河床洗浄実験を中心にその改善や方向性などの課題を一つ一つクリアしていく必要がある。
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アユは中流域に棲む魚で付着藻類(水垢や水苔)を主に食べている。左の写真は河床の石に付いたアユのハミ痕(餌を食べた痕跡)。アユの口は、石の表面にこびりついた付着藻類をすくいやすい形状になっている。(写真右)

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このプロジェクトは2011年にスタート。
その際、天竜川漁協から16項目の課題を与えられ、重要性によって3つのランクに分けられた。
最も重要なものがランク3の「河床撹拌の技術開発」。濁りが付着藻類にも大きな影響を与えているのでは? という視点で、濁りが礫の上に積もって付着藻類がうまく生えないのであれば、河床を価値の高い藻類被膜にするために清掃・撹拌すればいいのでは? という事を研究テーマに設定し、今までさまざまな実験をしてきた。

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現状の天竜川の状況を把握するために、毎年、船明ダム下流を中心に付着藻類の調査を行なっている。そこで左の3項目の解明を試みた結果、付着藻類の種類と量はアユの餌として適正でないことが判明。その原因は「濁り」であり、現実的に当面取り組める対症的な対策は河床撹拌・洗浄であると考えている。

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付着藻類調査では以下のことを調べる。
・付着藻類の種類
図左の珪藻類とその隣の糸状藍藻類はアユの餌に適す。図右の大型の目で見える糸状緑藻類はアユの餌に適さない。
・付着藻類の量
・付着藻類の再生速度
餌を食べつくしたあとどれくらいの早さで回復するか、ということも餌環境を評価するには欠かせない大事な要因。

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■アユが食べる藻類の量を調べる
・藻類が共通に含んでいるクロロフィル(葉緑素)の量を計る。
・死んだ葉緑素が分解されてできるフェオ色素の量を調べる。
・両者を比較→藻類の状態を調べる。
■東海地方の他河川と比較・クロロフィル…天竜川は少ない。
・フェオ色素…天竜川は高い。
・比率…生きている藻類の比率が低い。
天竜川では藻類の量が自体が少なく、その中で死んだ藻類が多いことがわかる。

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2016年の4月から11月までの変化を見てみると、4月〜5月は非常に少なく、6月下旬から7月、10月下旬から11月に藻類が増えていることがわかる。が、顕微鏡で調べると、この期間は食べにくい糸状珪類、糸状藻類が増えていることがわかる。また、総付着物に含まれる藻類量が少ないので、生活期間を通して、アユにとっては餌を食べたつもりでも、実際、餌となるような藻類はかなり少ないのが天竜川の特徴となっている。

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湖と違って河川での付着藻類の再生速度を調べる調査は非常に難しい。1.は一定期間タイルやレンガなどを川の中に置き、それに付着した藻類を調べる方法。放置している間にアユなどが藻類を食べたり、食べられないようにネットで保護をするとネットにゴミが付着したり、大水が来ればネットごと流されたり、簡単にいたずらされるという問題に加え、短期間では藻類の再生が難しいためどこまで正確に計測できるかという問題を孕んでいる。

次に2.の方法。これは再生された藻類の重量ではなく、再生に伴って生産された酸素量を計ることで藻類の重量を導き出そうというもの。光合成ができる透明な瓶と光合成ができない不透明な瓶の2種類を使い、剥ぎ取った付着藻類をそれぞれの瓶に詰め川に沈めたあと、一定時間後に酸素がどれだけ増えたかを計測し増えた有機物の量を算出、再生された付着藻類の重量を推定する。が、この瓶の中での変化は自然な川の環境下のものではないという問題を含んでいる。

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今回は最終的に水中の酸素濃度の変化の速度を測り、水中の酸素の生産速度を推定する方法を採用した。ちなみに酸素濃度とは、水中に溶けている酸素の濃さ。藻類の光合成によって作られた水中の酸素量から、藻類や水棲昆虫などの生物の呼吸で消費される酸素量を引いたものに、水中の酸素濃度の状況で放出されたり吸収される大気中の酸素が加味される。この計測には自動で定期的(毎10分)に水温と酸素濃度の変化を記録する計測器(写真右)を用いた。

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計測器を船明ダムの下流の右岸と左岸に設置。濁った水の影響で藻類の生産が少なくなることを想定していたが、ダムが藻類に与える影響は多元的だった。たとえば、水の流れが緩くなるところでは付着藻類が厚く積もり酸素の生産が大きく、右岸では酸素の消費が生産を上回って藻類が付かない状態に、左岸では藻類の被膜が厚く剥離しない垢腐れの状態になっていた。ダムの影響で生産が減る場合もあれば多くなる場合もある上に、多くなっても望ましい姿ではないこともあることが判明した。

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船明ダム右岸の酸素濃度の変化を見ると、船明ダムから流れてくる水の酸素濃度は1日中、ほぼ一定なことがわかる。(青い線)また、船明ダム下流右岸では光合成の影響で、日中の酸素濃度が高いことがわかる。(赤い線)この2つのグラフの差から、船明ダムの下流右岸では生産される酸素より消費される酸素のほうが多い、つまり付着藻類が光合成をしていても、呼吸などによる酸素の消費量がはるかに多いということがわかる。(2013年6月9日、1日の記録)

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こちらは同じ2013年の6月6日から25日までの20日間の記録。アユ釣り解禁後の6月前半では、船明ダム湖の酸素量が高いことに反比例するかのように船明ダム下流右岸では酸素が多く消費されていることがわかる。

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次に船明ダム下流左岸の様子。(2012年の10月中旬から11月中旬の記録)赤いグラフが酸素濃度を表している。日中と夜間とでは光合成によって作られる酸素量が大きく異なるため、毎日赤い線が振幅している。(上方が日中、下方が夜間)また、だんだんこの振幅が大きくなってくるが、これは被膜がだんだん厚くなって酸素の生産量が増えたから。10月23日に雨が降り、一気に酸素の生産量が減るが、再び徐々に酸素濃度が上がり、後半では垢腐れ状態になっている。

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これは同じ時期の気田川の酸素濃度のグラフ。(スケールも共通)#12と比較すると日中と夜間、毎日の酸素濃度の変動が小さく、酸素の生産も消費も少ないことがわかる。これは藻類が薄い被膜として河床に付着しているということ。天竜川の状態の異常さがよくわかる。

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これらのデータから次のようなことがわかる。
・付着藻類(アユの餌)の成育がよくない
・浅い瀬では付着藻類の被膜の発達が悪い
・浅い瀬で付着藻類が厚く付きすぎる
・深いところでは酸素の生産は少 (濁りで光が深いところまで届かない)
・深いところでは酸素は消費される

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現実的、かつ関係者の合意が取れる対策をとる、ということで「河床の洗浄実験」を昨年からはじめた。これは垢腐れ、礫上のシルト・粘土の剥離・除去が主な目的。これがうまくいかなければ、その次に、ダムから定期的に大量の水を流し清掃をする方法も考えられる。その際、効果的な清掃のためにはどの程度の水量が必要かというデータも必要になってくるが、そのためにも河床の洗浄・剥離実験が参考になる。

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左が実際の河床洗浄実験の様子。高圧ポンプで吸い上げた水を水中で放射することで、河床の表面に厚く付着している糸状緑藻類やシルト・粘土などを剥離・洗浄している。この方法は人手もかかるし時間もかかるという問題を孕んでいる。が、一度洗浄をすると、以降、アユが自分たちで河床を洗浄してくれることがわかる。

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河床洗浄実験の結果、クロロフィル(葉緑素)は半分以上剥離できるが、死んだクロロフィルが分解されてできるフェオ色素やシルト・粘土は半分程度しか剥離・洗浄できない。これが今のやり方での効率。

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清掃効果が小さくて、人数と時間がかかる現在の方法をどう効率化、省力化するかが今後の課題。写真は電源開発の研究所で、実際の天竜川の礫を使って、どのくらいの水圧をかければどれくらいの効果が出るかという実験の様子だが、これらを通し、そこで得られたデータを元に、これからの実験の方法や方向性などの参考だけでなく、将来のダムから定期的に大量の水を流し清掃をする「フラッシュアウト」の際の水量、水圧の参考になると考える。