2024年度 第2回 天然アユ資源の再生に取り組む会

◆議事概要

  1. 日 時:2024年11月5日(火)13:00~14:00
  2. 場 所:国道1号線から約500m下流の左岸側
  3. 議 案:
    1. 開会挨拶(平野会長)
    2. 今年度の産卵床造成の確認(高橋アドバイザー、谷髙事務局長)
    3. 国土交通省からの情報提供(国土交通省 浜松河川国道事務所)
    4. 第3回取り組む会の講評(平野会長)
    5. 次回開催の日程調整(事務局)


1.開会挨拶

    (平野会⾧)
  • ご多用の中取り組む会にご参加いただきありがとうございます。しばらく前の天気予報では本日は雨予報でしたが、本日は秋らしい日和を迎えることができました。本来であれば産卵床を造成した現場へ行き、現場を確認しながら本日の会を開催したいという思いでしたが、時ならぬ台風21号の影響で出水が続き本日は現場に入ることもできません。10月23日(水)に産卵床が完成し、親魚を放流した時点では高橋先生にも太鼓判をいただけるような出来であり、今日も現地が確認できるかと期待していましたが、本日は高橋先生、天竜川漁協谷髙事務局長から産卵床整備当日の話やその後の経過をお話しいただきながら進めていきたいと思いますので、今日はよろしくお願いします。

2.今年度の産卵床造成の確認

    (高橋アドバイザー)
  • 本年度は約600平米の産卵床を造成した。
  • 本年度の作業では掘削だけでは砂が除去できなかったが、周囲に良い粒径の砂利があり、それを投入することで理想的な産卵場ができた。
  • 普通の河川であれば今回の出来でアユが産卵しないということはほぼないと思う程良い産卵場ができたが、残念ながら台風21号による出水があった。ただ、近年中々気象条件が厳しく、造成後にそのままアユが利用できる状態で保たれる確率は50%程。2回に1回は流されるものという覚悟でやらざるをえない。
  • 出水への対応策というと、位置が高い砂州を選びそこに水路状の流れをくり抜く方法や、天竜川では難しいと思うが、産卵床の上流に止水壁を作るという方法がある。天竜川においては今までの造成方法を続けていくことが良い(他に手がない)と思う。

  • (谷髙事務局長)
  • 産卵床造成直後にダム放流があり、水位が落ち着いた10月27日(日)に鳥よけのテープを張るため現場に来たが、水位が低下しすぎており、一部水が枯れているような状況だった。また、その際に河川へ入り産卵床の様子を確認したが、産卵は確認できなかった。
  • その後の台風21号接近に伴い雨の予報が出ていたので現場の様子を見に行ったが、その時にはすでに河川に入れない状態になっていた。水位が落ち着いたときに産卵床が機能していれば嬉しいと思う次第である。
  • 産卵床造成地点の下流にはカワウがおり、捕食活動を行っている様子も見受けられるので、近辺には親アユがいるのだと思う。

  • (質問1)
  • 造成した時の砂利の厚さは?
  • →敷設した砂利の厚みは10cm程度である。

    (質問2)
  • 投入した砂利が今回の出水で流れ、造成した地点の下流が産卵床になる可能性はあるか?
  • →下流側の流れが緩くなるはずなので、今回の出水で投入した土砂が流れているとすると、砂利が堆積すると思う。そこに産卵床ができるかと言われれば、砂利の量が足らないと思う。

    (質問3)
  • 産卵床の流速は昨年度と変わらないか?
  • →正確な流速は計測していないが、昨年度は産卵床の流速が若干速すぎた。このため、今年は一昨年とおおよそ同じ流速にした。

    (質問4)
  • 現状、今年造成した産卵床が流されている可能性もあるとは思うが、水が引いたらこの箇所で産卵する可能性もあるのか?
  • →他の河川ではそのようなケースはある。先ほど有川先生から質問があったように砂利の流れた下流側で産卵されていたケースもある。しかし、天竜川の場合は表層の砂利が流れてしまうと、その下から砂が多く含まれた層が出てくるため、断言はできない。

    (質問5)
  • 今年も水路を造成した際は砂が多かったのか?
  • →今年度は昨年度より砂州の状態が悪く、ほとんど砂分が混じっている状態だった。手間はかかったが、砂利の投入や砂分をかなり流したことが良い結果につながった。

3.国土交通省からの情報提供

    (国土交通省 浜松河川国道事務所)
  • 先週も台風21号による大雨があり、皆様も感じている通り、年々気候変動の影響が顕著となっている。
  • 浜松河川国道事務所にて今後30年の事業内容等を示す河川整備計画を7月31日に策定し、その中でも気候変動対応ということ今後しっかり対応していきたいと考えている。
  • 気候変動の影響でいうと、海面上昇が挙げられる。仮に今後2100年までに気温が2度上がったとすると、海面が約43センチ上昇すると想定されており、我々が河川の計画を策定する際も海面の上昇を想定し策定している。
  • 他の河川になるが、菊川では15年間で河口潮位が約10cm上昇しており、我々の想像を超えるような速さで進行している。
  • 海面の上昇が進むと、土砂は堆積しやすくなり、アユも住みにくい環境になってしまうと想定される。このような会を通じて、皆様のお知恵をいただきながら考えていきたい。
  • 気候変動の影響という中では海面上昇の他に河川の水温の変化が考えられる。
  • 浜松河川国道事務所では川の水温もモニタリングしており、顕著な上昇は見て取れないが、長期的な視点で見ると若干の上昇傾向にある。これらのデータは天竜川流域委員会の中で公表しているので、浜松河川国道事務所HPの流域委員会資料を確認いただきたい。
  • 温暖化とは直接関係ないかもしれないが、魚類調査を実施している中でコクチバスが最近見つかり始めている。先日の調査では浜北大橋地点でも1個体発見された。佐久間の中部大橋地点では、わずかな調査時間においても55個体発見されている。
  • コクチバスは非常に懸念している問題であり、中々対策は難しいが、全国の対策例を基に対策を考えていきたい。いずれにしてもこのような対策は国交省だけで進めるものではなく、漁協をはじめとした皆様のお知恵をお借りしながら進めていきたい。

  • (質問1)
  • ネイチャーポジティブの考え方は、河川整備計画にも盛り込まれているのか?
  • →基本的に今までの河川整備計画は「環境の保全」という文言であったが、ネイチャーポジティブの考えを取り入れ、今は「環境の保全・創出」という文言になっている。我々としても環境を元に戻すというよりは、工事を行う際には工事の中で積極的に良い環境を創出していこうという意識を持っている。これは全国的に同様の取り組みをしている。

    (質問2)
  • 河川整備計画を随分前に作っている場所はネイチャーポジティブに関する文言が入っていないのではないか?
  • →現在気候変動対応ということで全国的に整備計画の見直しをしており、天竜川は全国で21番目に実施した。来年度菊川でも見直しを行う予定。

    (質問3)
  • 工事の際に環境の保全・創出に対する予算はどのくらいの手当されるのか?
  • →環境の保全・創出に対する予算というと通常の予算とは異なり、自然再生計画を作成し、事業化することで予算を確保するという方法がある。当然我々も今後自然再生計画を作成していく考えだが、通常の工事の中でも重機で川底を乱す等の工夫が現場でもできる。まずはお金をかけない対策を皆様のお知恵を借りながら行っていきたい。加えて河川環境調査も行っており、良好なワンドが発見されている。良好なワンドには手をつけないようにしつつ、そこに上手く水が入るよう上流に切掛けを入れる工夫等もしていきたい。大掛かりな対策を行う際には自然再生計画を作成し、委員会で承認をいただいて、予算化していきたい。

    (質問4)
  • 予算化された費用の内、ある一定の割合が環境に使われるといった使われ方になるのか?
  • →具体的にその内の1割を環境に関する工事に使うなどといったことはない。しかしながら、河川整備計画に環境の創出という文言が入っていることから、現場工事の中などで工夫を考えていきたい。

    (質問5)
  • ネイチャーポジティブに関し、それぞれの工事で何かできるかなどを検討する気運はあるのか?
  • →実際に現場の監督をやっている出張所には単純な工事をして終わりという事が無いように伝えている。このため、工事のご相談などで漁協さんなどに伺うこともある。その際に「上流へ切り欠きを入れる」、「大きな石を入れる」など要望を言っていただければ可能な範囲で対応していきたい。

    (質問6)
  • 最近は特に治水目的の工事は予算が付きやすいが、環境だけの工事では予算が付かないことが多い。今後、環境関連の予算を手当していこうとした場合、自然再生事業以外では難しくなるのか?
  • →他にも水辺整備事業などの事業もあるが、要件を満たすような計画を作ってそれを承認してもらえれば可能だと思う。天竜川であれば良好な環境を創出する意義がある事なので、そこを確りと踏まえて要求していく予定である。

    (質問7)
  • 自然再生計画の中で自然再生事業が事業として認められるという事ではなく、各河川に自然再生計画を立てるイメージか?
  • →全ての河川で計画を立てるわけではなくて重要性があるような河川で自然再生計画を立てていく。菊川のように人工的に作った河川では計画を立てることが難しいが、まずは天竜川で作ってみてこれが上手くいけば菊川などに広げていきたい。

    (質問8)
  • 場合によっては委員会を作って活動するのか?
  • →自然再生計画検討委員会の立ち上げを検討中であるが、総合土砂管理委員会など他の委員会の開催も複数あることから来年度の実施になる可能性ある。ただ、ワンドの調査などは現在実施しており、天竜川ではスナヤツメといった希少種も見つかっている。

    (質問9)
  • 大学の先生曰く、天竜川では湧水産卵が確認されているようである。そういったことを考えるとワンドをまず産卵場にするなど、早めの対応が必要になるのではないか?
  • →スピード感を持って対応していきたい。

    (質問10)
  • コクチバスが浜北大橋地点で1個体、中部大橋地点で55個体発見されたとのことだが、下流側から遡上していったのか。また、コクチバスの調査はどの様に実施したのか?
  • →コクチバスの調査は投網で実施した。また、コクチバスは上流地点から下流地点へ流れてきたものと考えている。

    (質問11)
  • コクチバスへの対策はどの様な事を実施しているのか?
  • →全国で実施されているコクチバス対策を調査している段階である。バス釣り大会などで取って食べて駆除したり、釣ったコクチバスをポストへ投函する、産卵床を潰すなどを実施しているようであるが、なかなか良い事例がない。産卵床への対処については現場に精通している漁協さんの意見も伺いながら進めていきたい。

4.第2回取り組む会の講評

    (平野会長)
  • 本会の発足に遡って話しをしたいと思います。天竜川では1979年に2万5千人の遊漁者がいましたが、2010年には2千5百人と10分の1に減少してしまいました。この状況を受け、資源再生の施策が必要じゃないかということから、2011年に有識者、電源開発、天竜川漁協の三者で天竜川天然資源再生連絡会が発足しました。2017年には同会でシンポジウムを開催し、2018年には推進委員会に名称を変更し活動を続けて参りましたが、この名前での取り組みが概ね完了したとして2021年3月に一度活動を休止しています。その後活動内容を見直し、同年11月に天然アユ資源の再生に取り組む会として活動を再開しました。再開する際に取り組む気持ちが変わったか、河川状態が変わったか、またはご指導が良かったこともあり、2022年、2023年と続けて産卵床での産卵が確認できました。また、2023年には高橋先生のお膝元である奈半利川へ伺い産卵床の様子を確認しました。奈半利川では産卵床を作ればすぐにアユが産卵に来るということでしたので、これを目標に今年度も産卵床を造成していただきました。丁寧に砂を流して頂きブルが走っても砂が舞わない程度になった産卵に適した産卵床が完成し、産卵を待っていたところですが、気候変動の影響もあって豪雨と増水、濁りで生憎の景色となってしまいました。しかしながら10月生まれはアユの再生産に寄与しない。だから11月までが大事だと。この現場に水が引いたときに産卵床として残っているとありがたいと思いますし、それに期待していきたいなと思います。暴れ天竜と言われた天竜川も昔と違って堤防ができ外までいかなくなりましたが、堤防の内側では暴れています。産卵床を作る場所なども考えながら、あるいは山の管理など天竜川の環境を守っていくことも必要です。いろんな調査にしても魚類にしても調査だけに留まらずにどうやって増やして行くとか、そのためには河川内部の環境をどの様にしていくか、あるいはその周りのいろんな要素をどの様にして取り込んでいくかということを考えながら進めていただけるとありがたいと思います。今日の段階では結果が出ていませんが、11月一杯ありますので、たびたび足を運びながら良い結果が報告できればいいなと思います。いずれにしろ残念な景色になってしまいましたが、今年度の産卵床を大事にしながら、確認しながら取り組んでいきたいと思いますので、ご指導よろしくお願いいたします。

5.次回開催の日程調整

    (事務局)
  • 次回の取り組む会は、3月目途で別途調整する。

【出席者】

会長 平野國行 天竜川漁協 代表理事組合長
副会長 喜多村雄一 電源開発(株) 土木建築部 専任部長
メンバー 中谷 勲 天竜川漁協 理事・総務委員長
鈴木長之 天竜川漁協 理事・業務委員長
平野利明 天竜川漁協 理事・総務副委員長
野澤利治 天竜川漁協 理事・業務副委員長
谷髙弘記 天竜川漁協 事務局長(事務局)
田中裕太 国土交通省 河川国道事務所 流域治水課長
油田健一 電源開発(株) 中部支店支店長代理
鈴木紀光 電源開発(株) 中部支店用地グループリーダー(事務局)
荒巻亮二 電源開発(株) 中部支店用地グループリーダー(事務局)
茂田井優那 電源開発(株) 中部支店用地グループメンバー(事務局)
奈村佳紀 電源開発(株) 佐久間電力所長代理
藤﨑 誠 電源開発(株) 佐久間電力所 土木グループ
アドバイザー 高橋勇夫 たかはし河川生物調査事務所 代表
有川 崇 近自然河川研究所 代表
記  録 石井健一 (株)J-POWERビジネスサービス エンジニアリング部 メンバー