2024年度 第1回 天然アユ資源の再生に取り組む会

◆議事概要

  1. 日 時:2024年8月8日(月)13:30~15:00
  2. 場 所:電源開発㈱天竜事務所 1階会議室
  3. 議 案:
    1. 開会挨拶(平野会長)
    2. 年間スケジュールの確認
    3. 今年度の産卵床造成方法等について(高橋アドバイザー)
    4. 雲名河床耕耘作業の検証(高橋アドバイザー)
    5. 第1回取り組む会の講評(平野会長)
    6. その他(静岡県様より話題提供)
    7. 次回開催の日程調整(事務局)


1.開会挨拶

    (平野会⾧)
  • 本日は、猛暑の中、ご参加頂きありがとうございます。昨今では地球沸騰化などとも言われるように、地球環境の悪化や気候変動などの問題が現れています。このような状況の中、アユを取り巻く環境も厳しくなっています。ダムの恩恵を受けて経済活動を行いながらも、いかに河川の環境を立て直していくかが重要になります。天竜川の本流で以前の様なアユ釣りができるように、みなさんで協力しながら取り組んでいきたいと思いますので、引き続きご助力をお願いいたします。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。

2.年間スケジュールの確認

    (事務局)
  • 年間スケジュールは、配布の資料2に示している。
  • 5月に雲名地点の河床耕耘作業を予定していたが、降雨により中止となった。
  • 10月には産卵床造成作業箇所の確認を行い、産卵床の造成および環境調査を実施する予定である。
  • 来年3月に河床環境改善の地点調査を実施予定である。

3.平鍋ダム、魚梁瀬ダムの視察

    (高橋アドバイザー)
  • 本年度の産卵床造成位置は、昨年とほぼ同じ位置の砂州とし、砂州の先端を切り開いて横断型の瀬を作りたいと考えている。
  • 造成の規模について、昨年は約30m×約30m=1,000m2程度であったが、本年度は約20m×約30m=600m2程度を想定している。
  • 本年度は現地調査が1度もできていないので、アユの生息状態(とくに親魚数)に関する詳細な情報についてはまだ入手出来ていない。
  • 本川の河床には泥が入っているため、産卵床造成時には丁寧な掘削洗浄が必要である。
  • 今日、現地を見た限り、アユの食み跡は少ない。水際にあったアユの食み跡が古い一方で、ボウズハゼの食み跡は新しい。
  • ワンドに小アユの群れがいたものの、昨年のサイズを下回っている印象である。

  • (質問1)
  • 他の産卵床造成候補地はないか?
  • →もし適地があれば漁協からご提案頂けると助かる。現在の候補地である1号線の下流は、造成地として極めて最適であるとは断言できないものの、天竜川におけるアユの主産卵域からは外れていない。また、これまでの実績もありデータが取れている。もし食み跡が多い場所を新しく選んで造成する場合、既に産卵床として適している河床を崩してしまう可能性もある。

    (質問2)
  • 造成のタイミングはいつ頃か?
  • →今年は調査を1回もできておらず、まだ親魚を見ていないため断言は難しい。出水で濁りが続いていることから、例年より産卵期が引延ばされる可能性がある。目安としては10月20日頃がよいのではないかと考えている。

    (質問3)
  • 天竜川漁協ではアユの親魚を可能な限り放流しているものの、その効果がどこまであるのか把握することは難しい。天竜川では資源として親魚が残らないような環境になっているが、親魚放流の効果も薄いという可能性はあるか?
  • →天竜川における昨年の仔魚流下量は約14億匹である一方、奈半利川では昨年少なくとも約25億匹が流下した。河川のサイズが異なるため単純比較はできないものの、天竜川では資源水準を保つレベルの仔魚流下量まで到達していない可能性もある。一方で、遺伝的に似た親魚を大量に放流すると、多様性を失い減耗リスクが上昇するため、単純に親魚放流量を増やすだけでは資源水準を保つことは難しいと考えられる。いずれにせよ、資源水準を最低限維持するという目的においては親魚放流の意味はあると考えている。

    (質問4)
  • アユにとっては(産卵場の)流れが速い方が望ましいのか?
  • →天竜川の場合、普通の河川と同じ流速ではアユが反応しないことが明らかとなりつつある。一昨年も昨年も、造成した産卵床の河床勾配は普通の河川と比較して急峻であったが、一昨年造成した産卵床の河床勾配がちょうど良かったと考えられる。

    (質問5)
  • 造成した産卵床の下流で観測する必要があるのではないか?
  • →流下仔魚観測の最寄り地点は池田付近である。一方、主産卵域は池田よりも上流側にあるため、既存観測地点における観測データだけでは判断材料が不足している。調査を実施するならば、例えば造成した産卵床の上流側と下流側の2点で仔魚密度を計測し、上下流の密度差から発生量を推測する方法がある。

    (質問6)
  • 掛塚付近で、遡上せずに海にも帰らないような個体(白ベタ=シラス型)がみられるが、原因は何か?
  • →船明ダム湖産の陸封アユが流れてダム下流に居ることを過去に確認している。そのような個体のSr/Ca比(ストロンチウム/カルシウム比)を測ると、海水経験も汽水経験もないことが判明している。特に、今年の春はそのような個体が多かった。

    (質問7)
  • 産卵床造成地点候補として、池田公園の近くはどうか?
  • →施工規模や重機搬入の可否などを検討する必要がある。また、河床材料の大きさによっては施工にかなりの時間を要する可能性がある点にも注意が必要となる。上流側の方に適地があれば場所をずらして実施してもよいと思う。

    (質問8)
  • 東名高速の右岸付近で、湧水実験を以前実施した場所はどうか。アユの産卵が安定して確認されている場所であることに加え、ミニサイズなら重機搬入が可能である。
  • →既に産卵が確認されている場所で産卵床造成を実施すると、主産卵域を壊してしまうリスクがある。例えば奈半利川の事例のように、主産卵域には手を付けず川岸に水路型の造成をするなどの工夫が必要となる。

4.雲名河床耕耘作業の検証

    (高橋アドバイザー)
  • 電源開発(株)が毎年、アユの餌となる藻を更新しアユの生息しやすい環境を回復することを目的に実施している河床耕耘について、2022年および2023年の現場データに基づいて検証した(資料3)。
  • 2022年の河床耕耘では、ブルドーザを用いて河床の古いコケや泥を落とし、耕耘区域内の上流側3分の1の範囲にバックホウで巨石を投入した。
  • 6月、7月、8月の食み跡被度を耕耘区と非施工区で比較すると、6月と8月に耕耘区域内の食み跡被度が上昇している。
  • 耕耘区域を下段・中断・上段の3領域に区分すると、巨石を投入した上段において、食み跡被度が高い結果となった。
  • 上段と中・下段の河床を比較すると、上段では巨石の存在により流れに変化がある一方で、中・下段ではフラットな流れになっている。したがって、耕耘作業によって単にコケや泥を落とすだけでなく、流れ(水深・流速)に変化を持たせたことが、アユの生息環境に影響を与えたと推察される。
  • 2023年の河床耕耘では、流れ(水深・流速)に変化を持たせることを目的に、河床材料を用いて水制や堰を配置した。その後の出水により水制や堰は流出し、単調な流れに戻った。
  • 2023年は調査実施が8月のみであったが、その調査結果においても、下段・中段と比較して水深・流速の大きい上段において、食み跡被度が高い結果となった。
  • 2023年8月の秋葉ダム直下における食み跡被度は、施工区において50%を超えた一方、非施工区においては11%となり、アユが選択的に施工区を好んでいることが明らかとなった。
  • 以上の結果から、耕耘作業によってコケや泥を洗い流しただけではアユの定着に結びつかず、物理的な条件(水深・流速)を変えることが重要であることが示唆された。

  • (質問1)
  • 2022年の結果では巨石を投入した上段において食み跡が多かったとあるが、図4右写真の河床をみると石間に砂利や玉石などが充填されておらずに空隙がある。一般的にはこの河床状態をアユは嫌がるのではないか?
  • →一般的に考えると、空隙が大きい石の周りにアユが定着している現象は不思議に思われるかもしれない。天竜川と他の河川ではアユの反応が少し異なっている。天竜川においては河床に凹凸が存在することが重要であると考えられる。

    (質問2)
  • 3年前の友釣り教室では下段の方でアユが多く釣れた。年によってアユが多い場所が異なるのはなぜか?
  • →流れがある程度強いことがアユの生息にとって重要と考えられる。年によって水位や流量が異なり流れの速い場所も変化しているため、アユの好む場所が変化していると考えられる。

    (質問3)
  • 右岸から左岸に水を誘導して左岸側の流れを強くすることはできないか?
  • →施工直後は良いが、放流があるとすぐに元の流れに戻ってしまう。ひと夏だけでも維持させられるような流量配分は可能か?
    →人工的に操作できるのは発電放流量およびダム放流量の2つであるが、水を誘導するような水制は発電放流の流量では水没し、ダム放流の流量では流されてしまう。西川の残流量だけでは流量が少なく、流量配分維持は難しいと考えられる。仮に右岸側の流量がコントロール可能であっても、現時点で比較的良好な右岸側の環境を壊すリスクを考慮する必要がある。

    (質問4)
  • 水制を造成可能か?また、その造成に用いる材料は入手可能か?
  • →河床材料を盛れば水制は作れるが、その場合の材料は玉石以上である。

    (質問5)
  • 気田川では小石の周りにアユがいて、釣り客は水深の深い所で釣りをしている。気田川と天竜川で状況が異なるのはなぜか?
  • →一般的には、巨石の空隙を考えると小砂利がある方が好ましいと考えられる。実際に、瀬の造成区では西川からの小砂利の供給がある。

    (質問6)
  • 6月・7月・8月を比較すると7月だけ食み跡被度が減少する原因は何か?
  • →7月は流量が多かった一方で、8月は流量が少し落ち着いたため、流れの環境に起因していると考えられる。

    (質問7)
  • 2023年のデータでは下段・中段と上段で食み跡被度が大きく異なるが、その時の粒径の状況を教えてほしい。
  • →上段では大きな石が点在し、勾配も急であった。一方、下段・中段では粒径が少し小さめであった。

    (質問8)
  • 20年ほど前は淵の上に瀬があり、河床材料の粒径が小さくてもアユは釣れていた。当時と現在で何が異なるのか?
  • →水質や温度などの環境の影響が考えられる。また、20年前と現在では流量規模や河床勾配が変化し、それがアユの生息環境に影響を与えている可能性がある。

    (質問9)
  • 2来年は河床耕耘をどのタイミングで実施するのか?
  • →解禁前に河床耕耘を実施しても、出水によってすぐ流されてしまうことが多い。そのため、5月中の早めのタイミングで対応したいと考えている。

    (質問10)
  • ドローンを用いて、河床耕耘した状況を撮影し保存しておくことはできないか?
  • →電源開発(株)天竜事務所において撮影しているが、2023年は施工後すぐに出水で流出してしまったため経過観察が出来なかった。

    (質問11)
  • 流速が速い方が好ましいのであれば、2本に分かれている流れを1本にまとめた方がいいのか?
  • →自然の流れで2本に分岐しているため、人工的に1本にまとめても自然の力によりいずれ2本に戻ると考えられる。
    →当該地点は上流の川幅が狭く、川幅が広がる場所である。そうした場所には土砂が堆積しやすい。ここに流量維持のための水制をつくる場合には、土砂の堆積作用に打ち勝たないといけないため、大規模で高さのある水制が必要となる。雲名の河床材でそのような水制をつくることは難しいと考える。
    →西川の残流量をコントロールすることはある程度可能であるものの、それに秋葉ダムの流量コントロールを加えると難易度が上がる。実施可能性などについては、河床耕耘前の5月定期測量断面での形状を見て相談したい。

    (コメント1)
  • 雲名では、大きな出水があると河床勾配が小さくなり、のっぺりした流れとなりやすい。そのため、川幅を広げて水を誘導するのではなく、少しずつ深くして河床勾配を作っていくのが良いと考えられる。雲名でも秋葉ダム直下流地点のような巨石を投入してみたらどうか。
  • →秋葉ダム直下流地点では、元の河床材が比較的大きいため、そこに巨石を据えても安定しやすい。一方、雲名は河床材料が比較的小さく、そこに巨石を据えても出水時に周囲の河床材が動くため、最終的に巨石が不安定化しやすい。例えば、雲名の河床粒径に近く、土砂供給量の少ない物部川の戸板島橋上流で瀬を造成した事例では、1m大の巨石を玉石河床に埋め込むように据えたが、その後に巨石周りが掘られて巨石が河床から暴露してしまった。雲名でも周囲の河床材に比べて大き過ぎる粒径の巨石を投入しても河床が維持されにくいと考える。雲名には最大で50cm級の石が点在しており、その石を大事にしながら対策を考えていくことが望ましいと考える。

    (コメント2)
  • 漁場としては河床に凹凸を付けることが重要になるが、河床耕耘のために重機を走らせると川底がフラットになりやすい点に留意する必要がある。

5.第1回取り組む会の講評

    (平野会長)
  • 対策の効果がはっきりと明らかとなることや、効果を持続させることは難しいものです。特に、出水が多いと難易度は高まりますし、昔からあばれ天竜と呼ばれる天竜川ではなおのことです。昨年度視察した奈半利川では、造成したらすぐに親魚が現れるという、効果がはっきりとわかる状態でした。天竜川でも良い効果が長く続くように、10月の産卵床造成に向けて皆で良い候補地を探し、最適な地点を選びたいと思います。そしてそれが資源の再生につながっていくことを期待しています。本日はありがとうございました。

6.その他(静岡県様より話題提供)

    (静岡県)
  • 気候変動の影響は、河川だけでなく黒潮大蛇行など海でも大きな問題となっている。
  • 静岡県で特に黒潮大蛇行の影響が大きいものとして、桜エビ、カタクチシラス、浜名湖のアサリなどがあり、不漁となっている。
  • 黒潮大蛇行は、海藻が高水温により死んでしまう磯焼けを引き起こし、ブダイやアイゴなど温暖な海域を好む植食性魚類が留まってさらに海藻を食べるなどの悪循環を引き起こす。
  • 近年、水産で特に問題となっているのは「食害」である。前述のとおり、ブダイやアイゴが海藻を食べて磯焼けを加速させたり、クロダイが浜名湖に留まってアサリを食べてしまったり、カワウが放流したアユを食べてしまうなどの問題である。特にカワウは気候変動によって幼鳥が越冬できるようになってしまったため、日本全国で問題となっている。
  • 静岡県ではカワウ食害防止対策検討会を年1回実施しており、平野会長にもご参加いただいている。特に天竜川漁協はカワウ対策の最先端をいっており、ドローンによる追い払いや、ドライアイスを巣に投入して卵を死滅させる※1などの対策を行っている。
  • 狩野川流域には繁殖地が無いにも関わらずカワウ被害が拡大しているため、カワウがどこからやって来るのか、GPSを付けて追跡することを検討している。結果が判明次第情報共有する。

  • ※1:卵を取り払うとひたすら次の卵を産み続けるため、卵を巣に残しつつ死滅させる必要がある。

    (質問1)
  • ブラックバスやコクチバスなどの外来魚による食害の状況について教えてほしい。
  • →ブラックバスなどによる食害も依然問題として残っているが、最近はカワウの話題が多くなっている。カワウは人間の目の前で放流したばかりのアユを食べてしまうなど直接被害を目に出来てしまうため、印象が余計に悪い。

    (質問2)
  • 河口にカワウが大量に飛来しているのを目にするが、どこから来ているのか?
  • →明確な場所は判明していないが、静岡県のカワウは琵琶湖からやって来るとも言われている。また、カワウはオホーツクなど遠方からも飛来できると言われている。GPSによる調査結果に期待したい。

7.次回開催の日程調整

    次回の取り組む会は、10月目途で別途調整する。

【配布資料】

  • 資料 1 「天竜川天然アユ資源の再生に取り組む会」 名簿
  • 資料 2 2024年度「天竜川天然アユ資源の再生に取り組む会」年間スケジュール
  • 資料 3 「雲名橋上流河床耕耘の効果検証」

【出席者】

会長 平野國行 天竜川漁協 代表理事組合長
副会長 喜多村雄一 電源開発(株) 土木建築部 専任部長
メンバー 中谷 勲 天竜川漁協 理事・総務委員長
鈴木長之 天竜川漁協 理事・業務委員長
平野利明 天竜川漁協 理事・総務副委員長
野澤利治 天竜川漁協 理事・業務副委員長
谷髙弘記 天竜川漁協 事務局長(事務局)
田中寿臣 静岡県 経済産業部水産・海洋局 水産資源課 資源増殖班長
油田健一 電源開発(株) 中部支店支店長代理
鈴木紀光 電源開発(株) 中部支店用地グループリーダー(事務局)
荒巻亮二 電源開発(株) 中部支店用地グループリーダー(事務局)
茂田井優那 電源開発(株) 中部支店用地グループメンバー(事務局)
奈村佳紀 電源開発(株) 佐久間電力所長代理
藤﨑 誠 電源開発(株) 佐久間電力所 土木グループ
アドバイザー 高橋勇夫 たかはし河川生物調査事務所 代表
有川 崇 近自然河川研究所 代表
記  録 石井健一 (株)J-POWERビジネスサービス エンジニアリング部 メンバー
関川真智子 (株)J-POWERビジネスサービス エンジニアリング部 メンバー