第3回天竜川 天然アユ資源の再生に取り組む会

◆議事概要

  1. 日 時:2023年2月10日(金)11:00~15:00
  2. 場 所:電源開発株式会社 茅ヶ崎研究所
  3. 議 案:
    1. 開会挨拶(平野会長)
    2. 茅ヶ崎研究所視察
    3. 鈴木邦弘氏講演
    4. 喜多村副会長講演
    5. その他(国土交通省、静岡県)
    6. 第4回取り組む会の講評(平野会長)
    7. 次回開催について


1.開会挨拶

    (平野会⾧)
  • 本日は、天候の悪い中、遠路茅ヶ崎まで、お集まり頂きありがとうございます。 2月になって暖かくなり、静岡県の西部では、花の便りも届いております。また、河口では稚アユも動き出していますが、雨が少なく渇水となっているため、遡上が難しい状況です。これから雨が降り、いよいよアユのシーズンが到来となって、遡上が多くなることを期待しています。天竜川漁協では、2月から遡上調査を始め、皆様へ情報を提供していく予定です。
  • 今年度は産卵床造成によって産卵も確認され、これも皆様の努力の積み重ねだと思います。来年も再来年も続けて天然アユ資源の再生を進めて行きたいと思います。
  • 本日は、2つ講演がありますので、講演からヒントを得ながら、また皆様と議論しながら、取り組む会を進めていきたいと思っています。どうぞ、よろしくお願いします。

2.茅ヶ崎研究所視察

    (喜多村副会長)
  • 仙美里調整池水理模型実験
  • 2016年8月の台風による利別川流域の水害を受けて、仙美里調整池の流水疎通能力の向上を目的に、水位運用や流路造成による河床変動特性把握のための水理模型実験を行っている。
  • 幌加調整池土砂バイパスに係る水理模型実験
  • 2016年8月の台風により大量の土砂が幌加調整池に流入して満砂状態となり、発電停止となったことから、土砂を下流に流すための土砂バイパス設備が計画されており、この検討のための水理模型実験を行っている。
  • CO2貯留実験
  • 化石燃料の利用に伴うCO2排出量の削減を図るため、CO2を地下の帯水層等へ安定的に封じ込めるための技術について、模型を使った実験を行っている。
  • コンクリート構造物評価実験
  • ダムで使用されているコンクリートの強度試験を行っている。湿度100%の冷暗所で、実際に全国各地点のダムに使用されているコンクリートを保存し、最終的には100年の強度を確認する予定である。

3.鈴木邦弘氏講演
  「河川におけるニホンウナギの生活~生涯10年の半分はお休み~」

  • 静岡県では1997年~2000年にウナギの産卵場の調査を行った。焼津から出航して6日間、西マリアナ海嶺周辺のスルガ海山周辺を航行して、ウナギの親、卵、レプト(子供)を収集した。ニホンウナギの産卵場はマリアナ海溝では無く、西マリアナ海嶺である。
  • ウナギの生活史としては、西マリアナ海嶺周辺で孵化し、海流に乗って半年~1年後に日本沿岸にシラスナウナギの状態で到達する。
  • 2013年~2015年に川ウナギの研究を行った。この研究の目的はウナギの稚魚が急激に減り続けている中で、静岡県の養鰻業や河川漁業の存続の為に実施したものであった。
  • ウナギの生態調査は静岡県伊東市宇佐美湾に注ぐ小河川で行った。宇佐美湾には同じ小規模の3本の小河川(烏川、伊東仲川、伊東宮川)が流入している。烏川は、泥底で生き物が多く温かい(温泉)。伊東仲川はコンクリートが多く浅く、汚く臭く、温かい(温泉)。伊東宮川は石が多く、水がきれいで冷たい。同規模でありながら、3つの川はそれぞれ異なる環境を有しており、また、漁協権も無いのが調査に適していた。
  • ウナギの調査方法は、電気でシビれさせてウナギを捕まえて、長さと重さを記載し、約15cm以上の個体にはマイナンバー(PITタグ)を付けて、元居た場所に放流する。これを30か月毎月繰り返すことで、ウナギの情報を蓄積し、個体別の川での生活も分かってきた。
  • 7㎝未満の稚魚の採集尾数と河口水温は、烏川(水温15℃):380尾、伊東仲川(14.5℃):149尾、伊東宮川(13.3℃):18尾であった。
  • 河川に侵入後、稚魚は、半年で15㎝に成長するが、その後秋から春までは休息する。このような成長と休息を、毎年、繰り返す。
  • 成魚は、年間5~7㎝の成長(個体差あり)、毎年、成長と休息を繰り返す。よってウナギは生涯の半分は休んでいる。
  • 伊東仲川、伊東宮川の黄ウナギ等の採集尾数も水温に影響されており、採捕量は明瞭な季節変動を示し、水温15℃以上である4月~10月に活発に活動することで採集尾数も多くなる。
  • ウナギの胃内容物の調査では、甲殻類やハゼ類を好んで食べ、夏は良く食べ、冬は食べないことが分かった。やはり、秋冬は休息している。
  • この3河川の比較では、高水温で汚い川の方が成長は良い。
  • また、高水温の河川ほど、ウナギは成長が早いが小型個体で占められる。水温が生息数、成長、大きさ、性比に影響を与える。川によってウナギの数や大きさに違いがある。水温が高い川はオスが多い。
  • 稚魚が好む場所は、水深20㎝よりも浅い、砂泥底である。
  • 季節で生息場所が変わり、夏は大石周り、冬は砂利底に潜ることが多いと推察している。暗い場所を好むため、今回の調査河川では橋の下に転石が多くあったため、そこで昼間に多く採集された。
  • 以上の結果から、ウナギの成長には水温が重要で、水温の影響を受けて、数や大きさが河川によって異なると結論付けた。また、成長段階や季節に応じて、棲む場所を使い分けているため、様々な環境が必要である。
  • 冬季に魚道整備工事が行われた河川では、工事以降、採捕尾数が激減し、特に大型個体がいなくなってしまった。冬季の河川工事はウナギ資源に影響が大きい可能性が示唆された。
  • ウナギの生態を十分に理解し、生涯半分に相当する低水温期のウナギをいかに守るからが重要と考えている。

  • (質問1)
  • 川の上流、中流、下流で性比が異なるか?マイナンバー(タグ)を付けた調査による影響は?
  • →過去の報告において、大きな川の上流には、高齢でメスが多いことが知られている。天竜川は大河川である為、上下流では性比が異なると考えられる。今回の調査を新聞やニュースで知って、採取に来た一般人もいたが、地元の方が採取する人に注意もしてくれたので影響は小さかったと思う。
    (質問2)
  • 河川工事後にウナギの採捕尾数が激減しているが、河川全体では減少しているか?
  • →対象の伊東宮川は距離もあるので、上流へ移動した可能性も否定できないが、工事個所のすぐ上に堰堤もあるので、単純に減ってしまったと思っている。小規模河川なので工事の影響が大きかったと思われる。工事中は一時退避させるなどの対策が考えらえる。大きな河川であれば、左右岸で施工時期を分けるなどの対策がある。
    (質問3)
  • ウナギが冬眠する水温は?
  • →18℃を下回ると活性が落ちるので、11月頃~3月頃に冬眠している。
    (質問4)
  • 浜名湖でウナギの成魚を放流しているが、効果はどの程度か?
  • →成魚は1匹500万の卵を産む。効果はどこまであるかは科学的には不明である。ただし、漫然と放流するのではなく、銀化個体を選別して放流するなど、効果が出るように努力している点は評価される。
    (質問5)
  • ウナギに付けたマイナンバー(タグ)の回収率は?
  • →約30%程度であった。

4.喜多村副会長講演
  「河川利用者との協働による河川環境保全の取り組みについて」<天竜川>

  • 天竜川天然資源再生連絡会は勉強会1年、準備期間1年を経て2011年4月にスタートし、委員の意見や調査を中心に2ヶ月に1回の頻度で開催した。2018年4月からフィールドを中心とした活動の「天竜川天然資源再生推進委員会」とし、現在の「天竜川天然アユ資源の再生に取り組む会」は2021年4月からスタートし、天竜川漁協、国土交通省、静岡県、電源開発の4者が委員となりアドバイザーとしてアユの専門家(高橋先生)、河川工学の専門家(有川先生)に参加して頂いている。
  • アユの漁獲量に関係の深い環境項目を統計解析から分析した結果、放流量、水温が正の相関、湛水面積率、SSが負の相関となった。また、漁獲量の多い河川は流量が多くSSが少なくなっている。主成分分析より漁獲量と酸素飽和度(DO)が密接な関係にあり、DOが大きくなれば漁獲量も大きくなるという関係にある。これは、付着藻類が光合成を行うことから溶存酸素が上がるためで、溶存酸素量を調べることにより、付着藻類の量が推定できる。
  • 付着藻類を保つために河床砂礫を綺麗にする必要があり、消防ポンプやブルドーザーのリッパによる河床耕耘を実施してきており、効果を確認している。
  • 水路型産卵床は砂州の縁を使ったり、砂州をショートカットしたりして作成しており、昨年10月に作成した産卵床では、その5日後に産卵が確認された。
  • 20年間の天竜川における流下仔魚の推移をみると、以前に比べて最近は流下仔魚が少ない傾向にあるが原因は不明で、秋の産卵期に出水があると流下仔魚が少ないようである。今年は増えそうなので期待している。
  • 天竜川では、2011年からマイクロアレイを作成している。マイクロアレイは生体から肝臓を取り出しその細胞からRNAを取り出して評価を行うものであり、環境DNAはアユの排泄物や皮膚の断片が含まれる水を採水するだけで解析できる。
  • 天竜川での調査では、秋口は環境DNAが見つからなかったが、その後産卵エリアで大きな量が確認され、さらに河口部では非常に大きな量となっている。これは親魚・稚魚が流下している状態を示している。
  • 天竜川ではマイクロプラスチックの調査を始めており、秋葉ダム上流の佐久間第二発電所放水口と秋葉ダム下流の東雲名では粒子状のポリスチレンが多く見つかり下流の塩見渡橋では繊維状のポリエチレンテレフタレートが多く見つかっている。ポリスチレンは食品トレイ、ポリエチレンテレフタレートはペットボトルが起源である。
  • 天竜川におけるこれまでの活動のほぼ全てをホームページ「まるっと天竜川」で発信している。
  • これまでの委員会、連絡会で実施してきた知見や情報をデータベース化しており、秋葉ダムから河口までの47㎞に河口の1㎞を加えた48㎞に対して環境を評価するツール「AYU48」を作っている。
  • 今現在、天竜川漁協、河川管理者、学識経験者、利水者が組織する「天竜川天然アユ資源の再生に取り組む会」で活動しているが、将来的には地域の関係者が加わった形で進めて行くことが良いと思っている。

  • (質問1)
  • 主成分分析において、漁獲量と酸素飽和度(DO)飽和度に関係性があるのはなぜ? 村上先生の調査では水温が上がるとアカグサレが繁殖してアユに悪影響を与えると考えられていたが?
  • →藻類量が多くなると光合成でDOが増える関係から、餌が増えるので、単純に漁獲量が増えたものと考えられる。分析に使っているデータは、月1回のデータのため、アカグサレによるDOの増加影響による餌の劣化といった応答まで捉えられていない。本解析は、平常時の平均的な傾向を示すものである。
    (質問2)
  • 洪水時にアユが流されるので、洪水時に隠れる場所があれば、良いのではないか?
  • →自然状態でもワンドなどに逃げているのではないかと考えられる。

5.その他(国土交通省、静岡県)

    (国交省)
  • 10月に魚類調査を実施し、27科、61種、2,949の個体を確認した。
  • 今回の調査では、新たに確認された重要種はなかった。外来種としてはカムルチーが初めて確認され、特定外来種のコクチバスも確認された。
  • 天竜川について航空レーザー測量を行っており、河川の水深が計測できる。
  • (静岡県)
  • 最近、カワウの被害が多い。カワウのねぐらは人家の近くにあり、また、天竜川に集中している。
  • 対策としては、ねぐら、コロニーの除去、捕獲、分布管理がある。引き続き調査を行う予定である。
  • カワウは滋賀県~静岡県をエリアとして移動していることもわかってきた。

6.第4回取り組む会の講評

    (平野会長)
  • 今年度は、電源開発(株)、天竜川漁協、国土交通省、静岡県の方々にご協力頂き、初めて産卵床の効果が確認されました。検討の舞台が机上からフィールド移ってきています。これからも皆様の知恵をかりて、日本一の天竜川にしてきたいと思いますので、引き続きよろしくお願い致します。

7.次回開催の日程調整

    次年度は5月開催を予定している。

【配布資料】

  • 資料 1 天竜川天然アユ資源の再生に取り組む会 名簿
  • 資料 2 「天竜川天然アユ資源の再生に取り組む会」年間スケジュール
  • 資料 3 魚のすみやすい川づくり勉強会
  •       「河川利用者との協働による河川環境保全の取り組みについて」
         佐鳴湖いきもの交流会
          「河川におけるニホンウナギの生活~生涯10年の半分はお休み中~」
  • 資料 4 国土交通省 天竜川環境調査結果
  • 資料 5 電源開発㈱茅ヶ崎研究所の現況および会社パンフレット

【出席者】

会長 平野國行 天竜川漁協 代表理事組合長
副会長 喜多村雄一 電源開発(株) 茅ヶ崎研究所 専任部長
メンバー 中谷 勲 天竜川漁協 理事・総務委員長
鈴木長之 天竜川漁協 理事・業務委員長
平野利明 天竜川漁協 理事・総務副委員長
野澤利治 天竜川漁協 理事・業務副委員長
谷髙弘記 天竜川漁協 事務局長
田中裕太 国土交通省河川国道事務所 調査課長
鈴木進二 静岡県経済産業部 水産・海洋局水産資源課 資源増殖班長
野々村誠一郎 電源開発(株) 中部支店副支店長
鈴木紀光 電源開発(株) 中部支店用地グループリーダー
市川雅典 電源開発(株) 中部支店用地グループメンバー
赤崎春奈 電源開発(株) 中部支店用地グループメンバー
森山貴彦 電源開発(株) 佐久間電力所長代理
アドバイザー 高橋勇夫 たかはし河川生物調査事務所代表
有川 崇 近自然河川研究所
記  録 小林英次 (株)J-POWERビジネスサービス 社会環境部 部長代理
石井健一 (株)J-POWERビジネスサービス 社会環境部 メンバー