第2回天竜川 天然アユ資源の再生に取り組む会

◆議事概要

  1. 日 時:2022年3月3日(木)13:30~15:00
  2. 場 所:秋葉ダム下右岸側
  3. 議 案:
    1. 開会挨拶(平野会長)
    2. 高橋先生よりアユの産卵床造成作業の講評
    3. 喜多村副会長より環境DNA、マイクロプラスチックによる生態環境評価方法等の講評
    4. 有川先生より秋葉ダム直下(西川合流点)の瀬の造成工事の説明
    5. 今年度活動内容の講評(平野会長)
    6. その他(国土交通省、静岡県)

I.開会挨拶(平野委員長)

第2回天竜川天然アユ資源の再生に取り組む会に参加していただきありがとうございます。今日は風が強いですが天気が良く、ようやく春めいてきました。そしてアユの遡上調査では待望のアユが確認され、やっと来たという感じです。
今日はできるだけ現場主義ということで、有川先生の取り組み現場を視察して頂きます。皆様の活発で闊達な意見を頂きたいと思いますので、よろしくお願い致します。

II.高橋先生よりアユの産卵床造成作業の講評

  • 2021年10月29日に産卵場造成を行い、造成後17日目の11月15日の観察で、産卵が確認された。産卵を確認した場所は、河床勾配がややきつくなる場所で、浅く流速が速い場所であった。それ以外の産卵が確認されていない場所は泥の沈着が見られた。産んだ場所の流速はアユの産卵にとっては速すぎるが、それよりも泥の沈着を嫌ったものと考えられる。
  • 産卵床をどこに設定するかのご助言を頂きたい。
    → 水路の勾配が少なくとも1/500を確保できていること、また、水路に投入できる河砂利が、河床の表層にあることである。親魚がたくさんいれば、最適とは言えない場所で産卵が行われるため、多少泥が沈積していても、泥を洗浄するように産卵することもあるが、現在の天竜川は親魚が少ないのでこのような結果になる。
  • 産卵床の造成時期はいつが良いか?
    → 産卵の盛期が10月中旬からとなるので、10月中旬が適当と考えられる。ただ、その時期の天竜川は水位が高いことが多く、遅れ気味になってしまう。
  • 新魚の放流を行う場所の近くに、産卵床を造成した方が良いか?
    → 良いがトラックが入れる場所など、いろいろ条件の制約があり、これらの条件を合わせていくのが大変である。

III.喜多村副会長より環境DNA、マイクロプラスチック調査の講評

  • 環境DNA調査を2021年10月(初秋)、11月(秋季)、12月(冬季)に実施した。この結果から初秋および秋季では、河口でのeDNA量が多い傾向にあった。冬季では、横山橋付近でeDNA量が多かった。また掛塚橋より下流から河口まで、eDNA量は少なかった。
  • 特に、11月はじめの秋季調査では、河口におけるeDNA量が圃場に多かった。これは時期的に親魚とは考えにくく、仔魚(成魚では無い)ではないかと考えられる。ただし、採水地点近くに親魚の死骸が多くあると、eDNA量が多くなる可能性がある。もし、仔魚が多いこととなれば、嬉しい事象と思う。
  • 冬季の調査では、船明調整池上流のeDNA量が多い。これは、気田川のアユが陸封された状況にあるからと考えられる。
  • eDNA量が、河口では多く掛塚橋では少ない傾向がみられるが、掛塚橋より下流では泥が多く産卵場所には適していないので、仔魚は少ないのではないか?両者のデータの傾向が不一致となった原因はなにか?
    → eDNA量が多い事実から、仔魚(成魚では無い)ではないかと考えられる。河口付近では多いのは事実としても、高利用区間の推定には、河口と掛塚橋の間等、少し調査地点を増やしても良いかと思う。
  • アユの孵化のピークは夕刻でありその影響もあるかもしれない。
    → 今後、eDNA量の測定の中で時系列を項目に入れて行っても良いかもしれない。
  • アユを食した鳥の糞、産卵後に死んだアユの影響はないのだろうか?
    → eDNAは、アユの生体から流水中に取り込まれたのち、すぐに分解が始まり、採水によって把握できるのは、採水地点上流500mぐらいの領域にいるアユに起因するものである。したがって、eDNA量には、アユを食した鳥の糞、産卵後に死んだアユの影響は殆どないものと考えられる。
  • 今年度のマイクロプラスチック調査では、採水ネットの目合いを小さくした結果、繊維状が中心で量も少なかった一昨年の調査とは異なり、0.35mm以下の粒子状のマイクロプラスチックが、佐久間第二、東雲名、塩見渡橋下流の各地点で多く見つかった。
  • マイクロプラスチックの原因は?
    → 河川に捨てられたペットボトル、プラスチックゴミが、流下過程で破損、徐々に小さくなったものと考えられる。また、繊維状マイクロプラスチックは、釣り糸も一つの要因と考えられる。
  • マイクロプラスチックが石の表面のコケや泥に付着したりしていないか?
    → 今年度は、現在分析中であるが、一昨年の調査では、アユの内容物からマイクロプラスチックが観測されたので、コケと一緒に取り込んだものと考えられる。アユの取り込んだマイクロプラスチックが排泄される可能性もあるものの、マイクロプラスチックが与える生態影響はまだ不明なことも多く、注意しておく必要はあるものと思う。

IV.有川先生より秋葉ダム直下(西川合流点)の瀬の造成工事の説明

  • 西川合流地点では支川・本川間の落差の解消(アユの移動性確保)と、河床低下の抑制(水制保護)を目的として巨石盛土を行った。この巨石盛土は土砂還元の一環であり、流失すれば都度供給するものである。
  • 使用した巨石は、秋葉ダムの堆砂処理で発生した巨石と静岡県から入手した巨石である。ここでは、対策前にあった二つの流路と中州の配置はそのままに河床をスライドアップした。西川は平常時の流量が少ないので、流量が少ない時は左岸流路に水が集まるようにした。
  • 西川合流地点における計画流量時の流速を概算すると9m/s前後になる。この流速でも動かない石の大きさを捨石の安定計算式(石同士のかみ合わせが弱い場合)で算出すると直径2m前後になる。実際の出水では、ダム放流があって西川合流地点は水没するので、ここまでの流速になることはないと思われるが、ダム放流がない状態で西川が増水すると西川合流地点は高流速になる。
  • 一方、巨石盛土で使用する巨石は、大きいもので直径1mを少し超える程度で、割合としては40cm前後の石が多い。このため、流れやすい小さい石は下に埋め込み、なるべく大きい石を河床表面に配置した。さらに、表面の巨石(主に流路部)は流れを受け流すように、巨石の上面が上流に向かって下がるように据えた。また、石は圧縮方向の力には強いことから、巨石を鱗状に重ねるように組むことで、外力(流体力)を圧縮力で受けるようにした。
  • 大きい石の量が少なかったため、中州盛土の中央部分は小さい石が表面にでている。
  • 出水時は、中州盛土の表面の小さい石は流れてしまうのか?
      → 小さい石は流れやすい。ただし、中州の上流端部をやや高くし、流れをなるべく左右岸の流路に分けるようにして、中央部分の小さい石に強い流れが当たりにくくはしている。
  • 西川合流点の瀬の造成工事は完了したと考えて良いか。また、来年度以降実施可能な候補地はあるのか。
    → 西川合流地点の工事は完了と考えている。候補地点については、平成29年度に現地調査をして秋葉ダム~気田川合流地点の区間で対策の必要な箇所と対策の方向性をまとめている。そのなかで、「鮎釣地点の下流の瀬(鮎釣下流地点)」については、既に具体的な対策図を書いており、来年度以降はそこの対策を実施すると良いと考えている。

V.今年度活動内容の講評(平野会長)

  • 先生方から、研究の狙い、成果の報告がありました。それぞれ単独の成果では無く、いろいろと組み合わせると良いと思います。今後、1/500勾配となる産卵床をどこに施工するかなど、いろいろ皆さんから意見を伺いながら、アユの再生に生かしていきたいと思います。

VI.その他(国土交通省、静岡県)

  • 今後、天竜川水系流域委員会、天竜川流砂系総合土砂管理計画委員会での成果を紹介したいと考えている。(国土交通省)
  • 静岡県内では、アユの遡上が減っている地点もあるので、天竜川での取り組みをモデルケースとして、他地点に反映させたいと考えている。(静岡県)

【配布資料】

  • 天竜川天然資源の再生に取り組む会 名簿
  • 「天竜川天然資源の再生に取り組む会」年間スケジュール
  • 秋葉ダム直下(西川合流点)の瀬の造成工事の説明資料(有川先生)
  • 今年度のアユ産卵場造成作業の講評(高橋先生)
  • 環境DNAによる生態環境評価方法等の講評(喜多村副会長)

【出席者】

会 長 平野國行 天竜川漁協 代表理事組合長
副会長 喜多村雄一 電源開発(株) 茅ヶ崎研究所専任部長
メンバー 中谷 勲 天竜川漁協 理事・総務委員長
鈴木長之 天竜川漁協 理事・業務委員長
平野利明 天竜川漁協 理事・総務副委員長
野澤利治 天竜川漁協 理事・業務副委員長
谷髙弘記 天竜川漁協 事務局長
船戸総久 国土交通省河川国道事務所 調査課長
小泉康二 静岡県経済産業部水産・海洋局水産資源課 資源増殖班 班長
野々村誠一郎 電源開発(株) 中部支店副支店長
及川 孝 電源開発(株) 中部支店用地グループリーダー
市川雅典 電源開発(株) 中部支店用地グループメンバー
小太刀理久 電源開発(株) 中部支店用地グループメンバー
森山貴彦 電源開発(株) 佐久間電力所長代理
アドバイザー 高橋勇夫 たかはし河川生物調査事務所代表
有川 崇 近自然河川研究所
記  録 小林 英次 (株)J-POWERビジネスサービス 社会環境部 部長代理
取材/Web制作 中里まっち Studio MATCH BOX