2020年度 第2回 天竜川天然資源再生推進委員会議事録

◆議事概要

  1. 日 時:2020年11月13日(金)9:50~14:30
  2. 場 所:天竜川
  3. 議 案:
    1. 開会挨拶(平野委員長)
    2. 今年度の活動状況の報告、課題に関する討議、方針確認
      • 課題1:産卵床造成について
        【場所】国道1号線橋下流左岸
        【説明者】高橋委員、喜多村委員
      • 課題2:湧水型産卵床造成技術の創出について
        【場所】かささぎ大橋上流右岸
        【説明者】竹門委員
      • 課題3:秋葉ダム下流河川環境改善作業について
        【場所】秋葉ダム下流左岸側
        【説明者】有川委員、村上委員
    3. 次回開催の日程調整、事務局連絡

I.開会挨拶(平野委員長)

秋も深まり冬間近となりました。今年度の各委員の方のご検討も大詰めとなり、今回は現地説明を頂き、良い成果が得られると良いと思っております。引き続きご指導を頂ければと思います。

II-a.産卵床造成について

■造成工事(喜多村委員)

  • 令和2年11月3日~5日に国道1号線橋下流左岸でアユ産卵床造成試験を行った。
  • 造成範囲は長さ120m、幅30mで、主流路から流路左岸に向かって落差を伴う流れのため周囲に比べて流速が大きく、ワンド前面で140cm/s、下流で110cm/s程度の流速となっていた。このため上流側の断面積を大きくし、また礫を投入して流入量を減らした。
  • 河床軟度は造成前10~12㎝で大きな値であったが、造成後に15~16㎝となってさらに大きくなった。
  • 造成工事により、一時的に濁度が10から約1,000へ上昇したが、造成終了後には元の値に戻った。DOは、造成開始前9mg/Lであったが、徐々に上昇して12mg/Lに達し、その後ゆっくりと低下した。

■造成後の産卵場調査(高橋委員)

  • 造成後の調査では、産卵が確認できなかった。(後日の調査で少ないながら産卵が確認された。)
  • 産卵が確認されなかった理由としては、産卵床造成が遅かった(水温が低下したため、流速の速い造成産卵場のような場所は選択されにくくなる)、周辺に親が集まっていない、浅いところで産卵しないケースの3つが考えられる。
  • 【質問】親が下りてきていないということか?
    →そういうことだと考えている。
  • ここ数年国道1号線橋下流に産卵場があったが、漁協の行っている流下仔魚調査からも今年は国道1号線橋上流と考えられる。
  • 11/10の調査によれば、流下仔魚は昨年に比べて多く観測されている。これから増えることを期待したい。
  • 昨年、一昨年と産卵時期に出水があって流下仔魚が減っていた。今年は近年の中では多い状況である。
  • 今年は出水も多く、洪水のピークが長く続き、流路の変化も大きくて自然砂州が多く作成された。(竹門委員)
  • 想像であるが、本川でフィルタリングされて水質が良くなり、産卵の確率が高くなったかもしれない。(竹門委員)

II-b.湧水型産卵床造成技術の創出について(竹門委員)

  • 2020年度は、「流量が多く本川との合流点から近い位置に瀬がある湧水流路」を見出し、湧水型産卵床造成適地とする技術開発を目指した。
  • 造成適地は、台風で変化した地形のうち、産卵床としてのポテンシャルが高い地形を選定して造成を行うものとして、8月13日に、かささぎ大橋から下流の8.8kmまでの範囲、10月29日~10月31日に12.6km、12.8kmの地点で適地調査を行った。
  • 12.6km、12.8km地点の湧水流路では、その下流で本川と合流点があり、そこに礫を投入して瀬を作り、その上流側では砂利、砂を撒いて、産卵床を造成した。なお、造成した湧水瀬が、車両通行により短期間で崩れてしまったことから、造成範囲については、車両通行禁止対策が必要となる。
  • 湧水流路上流側でアユの産卵を確認した。
  • 今後、湧水流路を活用したアユ産卵床の造成手法を一般化して、市民参加のイベントとして実施するのが良いと考えている。

II-c.秋葉ダム下流河川環境改善作業について(有川委員、村上委員)

■西川合流地点

  • 支川と本川間の落差解消(アユの移動性確保)と河床低下の抑制(水制保護)を目的として、巨石盛土を行った。
  • 2020年2月~3月に施工したが、このときに確保できた巨石が計画の約半量であったため、施工箇所の多くが暫定施工または未施工になっている。残りを今年度に施工して完成させる予定であったが、秋葉ダム付近の道路が通行止めになっており、来年度に延期になる見込みである。
  • 現状では、未完成箇所の縁辺部分の石が徐々に流失している。今年度の出水では水制際の完成箇所までは崩れていないが、来年の出水では流失する可能性がある。
  • 高橋先生の夏季調査では、放流アユが左岸流路を利用している状況が確認された。
  • 【質問】護床ブロック上の流れも改善した方が良かったのではないか?
    →護床ブロックは電源開発(株)の所有ではないため改変できない。なお、現状でもブロックの間の流れをアユは問題なく遡上できている。

■秋葉ダム直下地点

  • 河床洗堀により小規模化した早瀬(アユ漁場)を再生させるため、堆砂処理で発生した巨石を投入して瀬の骨格の再生を行った。
  • 2020年2月時点では、被災した水制の補修が完了し、巨石盛土へ流下したコンクリート塊も撤去した。
  • 2020年9月5日の調査では、西川から流入した大量の砂礫が巨石盛土のほぼ全域に堆積し、凹凸が小さくなったが、その中でも水深が深く、底石がでている所でアユが群れている状況が確認された。
  • 10月2日の調査では、造成した瀬の外形に大きな変化は無く、小出水(約500m3/s)で堆積土砂の一部が流下したものの、まだ砂礫が残っており、瀬の凹凸が小さく、水深も浅い状態であった。
  • 【質問】アユの生息地として有効か?
    →実際に生息地として利用しているようであり、縄張りも見られた。
  • 【質問】列状に巨石盛土をした状況は?
    →殆ど流されていない。
  • 西川の流れを広範囲に拡げる方が良いのではないか?→右岸側に水制状の突起を付けたり、巨石の配置を工夫して西川の流れが左岸側(外側)へ拡がるようにしている。
  • 高橋先生のハミアト調査では、非施工区よりも巨石盛土で造成した施工区の瀬の方でハミアトが多い傾向がみられた。
  • 秋葉下流に造成された河床(巨石列や列間の礫河床)の流速分布と付着藻類について調査を行った。
  • 夏期の水温・電気伝導度の調査結果より(調査時の状況:西川流量0.2m3/s、天竜川流量4.6m3/s)、秋葉ダム下流の横断面では、右岸より5m程度までは西川の影響が表れ、15mを越えれば殆ど影響が表れない。
  • 巨石列間の流速の鉛直分布は、通常は河床に近い部分の流速は表層流速に比べて低下するが、巨石列間では流れが複雑になるため、河床近くの部分に急な流れの場ができている。
  • 西川の水温は本川よりも高い日もあれば、低い日もある。
  • 施工区の右岸側の付着藻類群集は、藍藻類と小型の珪藻類から構成されている。また、未施工区の左岸側は珪藻類、緑藻類が見られた。

■鮎釣地点(資料による説明)

  • 2020年2月に暫定策として、瀬の下流側の流路を拡げて巨石を置き、瀬の脇に比較的な緩い流れを創出した。
  • 流路を拡げた時の掘削土砂を瀬の左岸や下流などに均した。
  • 2020年9月の調査では、拡幅した流路付近に大量の土砂が堆積し、中洲が流下し、左岸側に主流が移動した。瀬は上流部が緩く、下流部が急となった。
  • 本格的な改善策は、瀬が安定して状況を見極めてから検討する。

【配布資料】

  • 2020年度(第2回)天竜川天然資源再生推進委員会スケジュール(事務局)
  • 第2回出席者リスト(事務局)
  • 天竜川河川敷におけるアユ産卵床造成試験予定地の河川環境調査について(高橋委員、喜多村委員)
  • 天竜川河川敷におけるアユ産卵床造成試験(造成時・速報)(電源開発㈱)
  • 環境DNAによるアユ高利用域推定試験中間報告(喜多村委員)
  • 環境DNA分析による大規模・高濁度河川におけるアユの高利用区間推定可能性の評価-天竜川事例-(喜多村委員)
  • 貯水池下流河川の水質分析で検出されるアルミニウムの期限に関する一考察(喜多村委員)
  • 湧水型産卵床造成技術の創出について(竹門委員)
  • 大規模出水による中規模河床形態の変化と河道内湧水の生態機能に関する研究(竹門委員)
  • 秋葉ダム下流河道における河床環境改善の対策と夏季調査結果(概要)(有川委員)
  • 秋葉下流に造成された河床の環境と付着藻類(村上委員)

【出席者】

委員長 平野國行 天竜川漁協 代表理事組合長
副委員長 喜多村雄一 電源開発(株) 茅ヶ崎研究所専任部長
委  員 高橋勇夫 たかはし河川生物調査事務所代表
村上哲生 中部大学応用生物学部環境生物科学科教授
竹門康弘 京都大学防災研究水資源環境研究センター准教授
有川 崇 近自然河川研究所
中谷 勲 天竜川漁協 理事・総務委員長
鈴木長之 天竜川漁協 理事・業務委員長
平野利明 天竜川漁協 理事・総務副委員長
野澤利治 天竜川漁協 理事・業務副委員長
野々村 誠一郎 電源開発(株) 中部支店副支店長
森山貴彦 電源開発(株) 佐久間電力所長代理
アドバイザー 船戸総久 国土交通省浜松河川国道事務所 調査課長
小泉康二 静岡県経済産業部水産業局水産資源課 資源増殖班長
事務局局長 谷髙弘記 天竜川漁協 事務局長
事務局副局長 及川 孝 電源開発(株) 中部支店用地グループリーダー
事務局員 服部芳明 電源開発(株) 中部支店用地グループメンバー
小太刀 理久 電源開発(株) 中部支店用地グループメンバー
記  録 小林英次 (株)J-Power ビジネスサービス 社会環境部長代理
撮影/Web 制作 中里まっち Studio MATCH BOX
オブザーバー 中川 武 電源開発(株) 佐久間電力所 所長補佐
高橋真司 京都大学防災研究水資源環境研究センター
足立京子 静岡淡水魚研究会