2020年度 第1回 天竜川天然資源再生推進委員会議事録

◆議事概要

  1. 日 時:2020年6月18日(金)13:30~16:00
  2. 場 所:電源開発(株)「TV会議システム」によるリモート開催
  3. 議 案:
    1. 開会挨拶(平野委員長)
    2. 2019年度実績報告および2020年度提案内容説明
      • 高橋委員
      • 村上委員
      • 竹門委員
      • 有川委員
      • 喜多村委員
    3. 委員会活動について
    4. その他(話題提供) 国土交通省 浜松河川国道事務所 船戸調査課長
    5. 次回開催の日程調整、事務局連絡

I.開会挨拶(平野委員長)

今回は新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、委員には電源開発の各事務所に集まって頂きTV会議とさせて頂きました。各委員には昨年度の活動実績の報告と今年度の活動提案についてご説明をお願いします。

II.2019年度実績報告および2020年度提案内容説明

a. 高橋勇夫委員

  • 2018年のアユの流下量は11月下旬にピークとなったが、量的には少なく実質的にはピークは無かったと言える。2018年の総流下量は0.6億尾で、1996年以降最も少なくなった。
  • 2019年秋(9月下旬)のハミアト被度は著しく低く、親魚量の不足が懸念される水準であった。
  • 秋葉ダム下流の巨石列(盛り土)の施工区はハミアト被度が7~14%程度で、非施工区の4%よりも高かったものの、アユの生息数そのものが少なく、過去の調査のような明瞭な差とはなっていなかった。鮎釣地点では施工区の8%に対して、非施工区は0%であった。一定の差は認められるものの、値が小さすぎて、有意なものかどうか判断できない。今回の調査だけでは確実に施工による効果と言えないので、今後の調査にて確認する予定である。
  • 秋葉下流では、右岸側でハミアト被度が多いのは何故?(有川委員)
    →右岸側は西川からのきれいな流れが原因と思っていたが、今年度(2020年度)は施工区全体で、比較的高いハミアト被度であったので、さらに調査を続け、観察する予定である。(高橋委員)
  • 左岸側は流れが弱く、石が転がるほどの流れとなっていなかった事が原因と考えられる。(村上委員)
  • 国交省のデータでは、流下仔魚が確認されたとのことであったが、どの程度か?(竹門委員)
    →掛塚橋定点にて流下量のピークが18:00-19:00に見られることがあったので、5-9kmの間に産卵場があったことになる。(高橋委員) →場所の特定が重要である。(竹門委員)
  • 今年度の活動は、昨年度の活動を引き続き行う予定である。(高橋委員)

b. 村上哲生委員

  • 昨年度、秋葉ダム下流に創出した巨石列(盛り土)の微環境と付着藻類の調査を行った。巨石列(盛り土)は、流速の緩急を生じさせる。巨石の急流面には珪藻、糸状藍藻、緩流面には糸状緑藻が付着した。今後、巨石列間には緩流域が生じて糸状緑藻が繁茂する可能性が高いため、平らな巨石を置いて水深を浅くして流れを維持することで、アユが好む珪藻・糸状藍藻の発達を図る。
  • 溶存酸素量は、巨石列群上流側に比べて、下流側で上昇しており、巨石列による藻類生産が推定された。
  • 河川横断面のうち、流速の速いところでは緑藻類が茂り、流速が遅いところではアユが好む珪藻類、藍藻類が茂った。
  • 雲名橋上流の河床耕耘試験では、ブルドーザのブレードを用いることで、人手を要せず剥離効果を大きくすることできることを確認した。
  • 耕耘直後は付着藻類の剥離率(クロロフィルa濃度)は90%に達し、2週間後も薄い珪藻皮膜の状態が維持された。
  • 耕耘後にシルト粘土は直ぐに沈殿してしまうため濁りは直ぐに低下するが、沈殿してその場の礫に付着するため付着物重量は変化しない。
  • ブルドーザにより礫が割れるため、それを見た住民の方が気にされる可能性がある。
  • 今年度は引き続き、秋葉ダム下流に造成された巨石列(盛り土)の環境と付着藻類を調査する予定である。
  • 今年6/4の予備調査によると、巨石列(盛り土)にて流速が1m/s以上となる箇所があり、また、西川の水温は高い状態であった。施工区の深みの部分の礫にはアユの食痕、糸状藍藻が観測され、未施工区では糸状緑藻類、鮮類(苔植物、種類未同定)も見られた。
  • 西川の影響をどのように調査するのか?(竹門先生)
    →本川への影響は小さいと考えられる。流速、水温分布から藻類がどのように違うか、また、攪乱の影響や出水の影響も調査する。(村上委員) →砂利の粒径、水深や流速、濁りも影響するため、もう少しデータを集めての検討が必要である。(高橋委員)
  • 土砂供給の影響も検討すべきであり、効果があれば置土を検討すべきである。(竹門委員)
  • 流れの弱いところには平な石を入れるとあるがどういうイメージか?(有川委員)
    →流れに当たるように平たい石を置く。(村上委員)
  • ベントトーチ調査を施工区の年度別と非施工区で実施して比較してはどうか?(有川委員)
    →サンプル数が非常に多くなるので難しい。(村上委員)

c. 竹門康弘委員

  • 昨年度は現調査を3回実施し、それぞれの流量と水質、アユの産卵調査を行い、自然に形成される湧水路の地形特性と産卵数、流下仔魚数との関係を検討した。
  • アユの繁殖においては湧水流路が重要となる。また、湧水路面積として5,000m2以上のものが重要であり、小さいものが沢山あっても効果が小さい。
  • 主産卵場が湧水瀬に形成されているという判断か?例えば、2007年当時は140億尾の仔魚があったと推定されているが、この流下量レベルだと親魚数は200万尾程度と計算される。これが湧水瀬に収容できたとは考えられない。また、当時、瀬替えされて水が無くなった深瀬で産卵場を確認している。流下仔魚の大部分が湧水瀬に由来しているとは考えられないのでは?(高橋委員)
    →調査の結果、流下仔魚と砂州とに相関があったため、仮説として湧水流路との関係を検討した。(竹門委員)
  • 今年度は、引き続きアユの生態・生息調査、産卵床造成技術の検討を行う予定である。

d. 有川崇委員

  • 秋葉ダム直下流地点では巨石盛土で小規模化した瀬を再生する試みを2017年~2019年に実施した。
  • 2019年のモニタリング調査の結果、列状に据えた巨石は、水制の破損に起因すると思われる流失(2個)が確認されたが、それ以外の流失はなかった。全体としては、2019年の出水後も再生した瀬の外形が維持されていた。
  • 西川から流入する砂礫の影響が大きい上流部では、列状の石を基点としてその間に玉石などが詰まっては流下するという状態が見られた。
  • 西川からの砂礫は瀬の中流~下流部で拡散するため、理想的な状態となっている範囲は狭く、再生した瀬全体としては砂礫が不足している状態だと考えられる。今後は、置き土で安定的に砂礫を供給すると良いのではないかと考えている。
  • 2019年の調査では、列状の巨石や深みの底石でアユがコケを食む状況が確認された。
  • 鮎釣地点の対策箇所では、2019年の出水により右岸で大きな地形変化があった。水中の状態は濁りのために確認できておらず、対策の評価はできなかった。
  • 西川合流地点では、河床低下による落差を解消し、アユが本支川間を移動できるようにするための巨石盛土を2020年2~3月に実施した。この施工では、確保できた巨石量が計画の約半量であったことから対策を完了できなかった。残った対策は本年度に実施したい。
  • 横断地形を定期的に測量しておくと変化が分かりやすいと思う。(村上委員)
  • 巨石列(盛り土)の施工時には植生を取り除いたか?巨石はどこから持ってきたか?(竹門委員)
    →植生は、別途、水制工の補修工事の時に取り除いている。巨石は秋葉調整池の堆砂処理で発生したものを使用している。(有川委員)
  • 巨石の投入量や粒径を記録しておき、今後、RTKドローンなどで測量して、収支をみていくと役立つと思う(竹門委員)
    →本年度にもう一度巨石を投入するので、測るのは本年度の投入後が良いのではないかと思う(有川委員)
  • アユは巨石列(盛り土)を行き来しているか?巨石は一気に流下しないか?(漁協)
    →本年の6月上旬に造成したステップ&プールの流路で潜水観察したところ、どのプールにもアユがいたことから利用されていると思う。巨石は石と石とを組み合わせることで流れにくくしているが、徐々に流下をしていくものなので、ある程度流下したらまた巨石を投入することになる。(有川委員) →巨石の移動状況やアユ利用しているかを今後モニタリングしてもらいたい。(漁協)

e. 喜多村雄一委員

  • 昨年度、環境DNA濃度、ハミアト被度の調査を行い、河口から15㎞まで範囲が主産卵場であると考えられる。メタバーコーディング解析では、魚の種類も特定できた。
  • 産卵床造成試験を高橋委員と、河床耕耘試験を村上委員と共に行った。耕耘試験後の付着藻類と河床軟度の調査の結果、耕耘により付着藻類の低減が2~3週間保たれることが分かった。また、少しの出水でも河床軟度が失われることが分かった。
  • 濁水低減を目的に、紐状ろ材試験を佐久間貯水池で行い、吸着効果が大きいことを確認した。
  • 吸着物を調査したいので、サンプルを入手できないか?(村上委員) →次回の調査時にサンプルを採取して提供する。(喜多村委員)
  • 今年度は、eDNA、ベンチトーチ試験、AYU48フォローアップ、ホームページ保守、産卵床造成試験、河床耕耘、紐状ろ材試験、貯水池流動制御の検討を行う予定である。

III.委員会活動について

これまで、再生連絡会、再生推進委員会としてさまざまな研究が行われ、各委員および学識経験者、アドバイザーの国や県からご提言を頂き、アユ資源増加の対策に取り組んできた。一方で天竜川を取り巻く環境も厳しさを増し、変化してきていることもあり、これまでの取り組みの内容を見直し、未来に向けた取り組みを漁協内で整理する時間を設けたいと考えている。このため、委員会の活動を今年度2021年3月を持っていったん休止する。(平野委員長)

IV.その他情報提供など(国土交通省)

天竜川水系河川整備計画策定後、河川整備計画の点検を行うために、河川に関する学識経験者に意見を聴く「令和2年度 第1回天竜川水系流域委員会」を6月15日(月)に開催した。

V.次回開催の日程調整、事務局連絡

次回の開催は11月13日(金)とし、委員による現場説明を中心に行う。

【配布資料】

  • 2020年度(第1回)天竜川天然資源再生推進委員会スケジュール(事務局)
  • 2020年度 天竜川天然資源再生推進委員会 名簿(事務局)
  • 2020年度(第1回)天竜川天然資源再生推進委員会 出席場所一覧表(事務局)
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 2019年度活動結果(高橋委員)
  • 2019年度調査結果の概要(高橋委員)
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 2020年度活動計画(高橋委員)
  • 2020年度天竜川アユ資源保全調査計画書(高橋委員)
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 2019年度活動結果(村上委員)
  • 2019年度天竜川天然資源再生推進委員会 活動報告(添付資料)(村上委員)
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 2020年度活動計画(村上委員)
  • 再生推進委員会 追加資料 秋葉下流に造成された河床の環境と付着藻類(中間報告)(村上委員)
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 2019年度活動結果(竹門委員)
  • 天竜川におけるアユの繁殖に適した湧水流路の地形特性と形成履歴 概要3種(竹門委員)
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 2020年度活動計画(竹門委員)
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 2019年度活動結果(有川委員)
  • 秋葉ダム下流河道における河床環境改善の対策2019年度活動結果報告(有川委員)
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 2020年度活動計画(有川委員)
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 2019年度活動結果(喜多村委員)
  • 第1回 天竜川天然資源再生推進委員会 資料(喜多村委員)
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 河床耕耘試験 概要報告(喜多村委員)
  • 河川技術論文集 第26巻 2020年6月29日
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 2020年度活動計画(喜多村委員)
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 2020年度実施計画概要(喜多村委員)
  • 天竜川天然資源再生推進委員会 2020年度(年間スケジュール)(事務局)
  • 「令和2年 第1回 天竜川水系流域委員会」について」国土交通省)

【出席者】※( )内はリモート中継地点

委員長 平野國行 天竜川漁協 代表理事組合長(天)
副委員長 喜多村雄一 電源開発(株) 茅ヶ崎研究所専任部長(茅)
委  員 高橋勇夫 たかはし河川生物調査事務所代表(高)
村上哲生 中部大学応用生物学部環境生物科学科教授(中)
竹門康弘 京都大学防災研究水資源環境研究センター准教授(西)
有川 崇 近自然河川研究所(高)
中谷 勲 天竜川漁協 理事・総務委員長(天)
鈴木長之 天竜川漁協 理事・業務委員長(天)
平野利明 天竜川漁協 理事・総務副委員長(天)
野澤利治 天竜川漁協 理事・業務副委員長(天)
野々村誠一郎 電源開発(株) 中部支店(中)
森山貴彦 電源開発(株)(天)
アドバイザー 船戸総久 国土交通省浜松河川国道事務所(天)
小泉康二 静岡県経済産業部水産業局水産資源課(天)
事務局局長 谷髙弘記 天竜川漁協 事務局長(天)
事務局副局長 及川 孝 電源開発(株) 中部支店用地グループリーダー(中)
事務局員 服部芳明 電源開発(株) 中部支店用地グループメンバー(中)
高橋宏明 電源開発(株) 中部支店用地グループメンバー(西)
記  録 小林英次 (株)JPビジネスサービス 環境・防災システムグループリーダー(茅)
     
※(天)……電源開発(株)天竜事務所
  (中)……電源開発(株)中部支店
  (西)……電源開発(株)西日本支店
  (高)……電源開発(株)高知電力所
  (茅)……電源開発(株)茅ヶ崎研究所