▲産卵床の全景。写真は造成の最終工程。重機で砂利を投入・敷設した後、スタッフ全員で細かく踏み均している。奥を天竜川本流が流れている。写真右が上流方向。
天竜川では以前から水深1.5m以上の深瀬が主な産卵場となっていることが指摘されています。実際、アユがまだ多かった2007年頃に数年間浅瀬に産卵場を造ってみましたが、最大でも1,000㎡程度の範囲にしか産卵せず、浅い場所での産卵を嫌っていると判断し、その後産卵場の造成は行ってきませんでした。
しかし、近年のアユ資源の減少が急激であることから、資源の再生に向けて可能性のある対策は積極的に取り組む方針で、2017年から産卵場の造成を再開しました。ところが、造成後の出水で流されたり、産卵期に入っても水位が下がらずに造成を断念したりと、残念ながら成果はまったく上がっていませんでした。
天竜川での造成の適期は産卵が活発化しはじめる直前の10月中旬頃ですが、今年も度重なる出水と濁りの長期化のために、造成時期が11月初旬にまでずれ込んでしまいました。今年の造成方法は、これまで成果が出なかった水路タイプ(砂州に幅5mほどの水路を堀って産卵場に整備する方法)をやめ、自然河道に産卵に好適な砂利を投入・敷設という方法を試みました。この方法は投入する砂利を集めるのに手間が掛かりますが、各地の河川で大きな成果を上げている方法です。産卵場造成は水位が低下した11月3日から開始。まず、造成予定の河道周辺の砂州表面に堆積していた砂利をブルドーザー等で集めて、水際まで運搬します。これに2日掛かりました。最終日の11月5日は集めた砂利をバックホーやブルドーザーで川の中に投入し、敷設していきました。
▲砂利投入・敷設状況。キャリーダンプを使って流れの中に砂利を投入(写真左)したり、水際に集めた砂州上の砂利を重機で川の中に押し込むようにして敷設する。(写真右上下)
▲水深のある下流側は主にブルドーザーで砂利を投入。砂利を敷き詰める厚さを微調整するために、ブルドーザーの排土板(ブレード)の向きや高低を川の中からオペレータに細かく指示する。最後にブルドーザーを高速で後退させブレードで河床を均していく。(写真下右)
▲砂利を敷設し、重機で均しても河床には凸凹が残ってしまうので(これをアユはすごく嫌う)、クワや足を使って、河床を平坦に均していく。
▲スタッフ全員出で産卵床上流部の河床を踏み均す。並んで作業することで、均し残りを防ぐことができる他、人が踏んだ小さな窪みはアユが産卵をする際に産卵床として利用される。(写真左上下) 河床の状態をチェックする高橋博士。(写真右)
▲最後の仕上げでもう一度上流端から下流端までを踏み均すスタッフ(。写真上) 11月5日14:03現在の水温等(。写真下左) 赤枠内が今回、造成した産卵場。( 写真下中央) 造成産卵場の河床。アユが好む浮き石の河床となった。(写真下右)
こうして、11月5日に2020年度の産卵床造成実験は終了しました。そして、それから9日後の11月16日の早朝、天竜川漁協の谷髙事務局長が河床の様子を調べたところ、狭い範囲ですが、写真のように産卵が確認されました。
▲造成後9日で産卵床の河床は広範囲で泥などで茶色くなっていた。(写真左)その中で、緑色で囲まれたエリアは河床が汚れてなく、その中の赤丸で囲った区域で写真のような産卵が確認された。遠くに下流を走る東海道線の鉄橋が見える。(写真提供:天竜川漁協)
▲上の産卵床を左岸側から見た写真。赤枠が産卵床造成エリア。緑色が上の写真の「河床が汚れていない」区域。黄色マークが産卵が9日後に産卵が確認できたポイント。黄緑色のマークが後述の23日に産卵が確認できた追加ポイント。右端に国道1号線旧道の橋桁が見える。
【谷髙事務局長からの追記】
前回の造成産卵床の確認から1週間が経過しましたので、11月23日(月・祝)午前に再び現場を確認しました。前回と同場所に加え、今回はやや上流部でも産着卵が確認できました。しかし、卵量は前回と同様に少量で、産卵範囲が広域に増幅している様子は見受けられませんでした。河床表面がきれいに保たれている範囲は前回とあまり変わっていませんでしたが、河床軟度が若干硬化している感じがいたしました。瀬より下流部のやや水深があるあたりの河床表面は全体的に茶色い泥やコケが付着しており、また、時間の経過とともに大部分が大きな石と砂に覆われてしまったため、、産卵には不向きな状況となってしまったように思われました。
[水温:13.8℃/透視度:76cm]