産卵床調査―竹門編― 2018年11月10日から12日 京都大学防災研竹門康弘准教授が、今年の洪水で形成された砂州に作られた湧水瀬や、今年の1月に造成した産卵床でのアユの産卵状況を調査しました。

▲ここでは流れが急なこともあって、大きめの礫に産卵が見られた。

今回は、今年の夏以降の2回の4000tクラス、1回の6000tクラスの大きな洪水後に新たに形成された砂州を中心に調査を開始。その結果、4ヶ所で産卵していることが確認された。
雨どいパイプを使った新村式調査方法で、東名高速直下の上流&下流部右岸ではそれぞれ調査用パイプ1すくい当たり50個以上、かささぎ大橋上流15km地点右岸、東海道線下流右岸7.5km地点では100個以上が確認できた。

なお、今年1月15日〜17日にかけて、8.2km〜9.1km地点の天竜川左岸に造成された産卵床(地図の赤い破線で囲まれた部分)では、今年の夏以降の3度の洪水の結果、その形状が変わるなどの影響で結果的に産卵を確認することはできなかった。

▲雨どいを斜めに切断して作られたパイプで河床を掘る。(下の写真に続く)

▲採取した砂礫をバットに移し、卵の数を数える。

▲今年1月に行われた造成工事下流域。湧水の溜まりから流れ込む水はきれいだが水深は浅く、流速もない上に河床も砂が多いため産卵は確認できなかった。

▲卵床調査に並行して環境調査も行なわれた。写真左はシノを使った河床軟度調査、続いてパイプを砂州の地中に差し間隙水を抽出→間隙水の水質調査。濁度計測器(右上)とマルチ水質・水分測定器(右下)。

ここ数年間、竹門准教授は16km地点や8km地点での3度の造成実験を繰り返してきた。だが、せっかく盛土などを施して効率的に湧水を増やすために湧水瀬の造成を行なっても、一度の大水でそれらが破壊されてしまったことが苦い経験になっている。今後はその時点での完成形を計画するのではなく、「洪水が起きたあとに下流側に残る形にその効果が残るような環境改善を施す必要がある」と竹門准教授は示唆する。そのためには、「川がどう動くかを予測する」という高度な技術が必要になるが、「それは本来、日本の土木技術が伝統的に得意としてきた分野でもある」と竹門准教授は期待する。

▲11日夕方に発見された産卵床。流れが急速になっているポイントに産卵が確認された。写真は流速の計測中。右奥に東海道線の鉄橋が見える。

▲12日午前中、かささぎ橋上流15km地点に多くのサギが集まっていた。近くに餌となるアユが多く生息している証拠であり、産卵の痕跡が期待された。

▲12日に発見された産卵床。水深がほとんどない状況でも産卵が確認された。河床材料も小石と砂砂利であることがわかる。

▲上の場所(写真左奥)から数m離れた浅瀬でも産卵が確認された。

同時に、今回の調査を通して、今年、3度の洪水で川の流れが変わり、それによって新たに生まれた砂州の湧水瀬で産卵床が見つかったことから、「天竜川には元々このように自然の力が働いて砂州が動き、ダムによって生じる濁りが自然に解消されるメカニズムがあったことも考えられる」(竹門准教授)と推測する。であるならば、来年以降は衛星写真を使って洪水後の地形の変化を確認しつつ、自然に砂州が作られた場所を探し、その場所の環境を整える産卵床の環境整備という新たな方向性も見えてくる。
また、大きな洪水がない場合でも、年1回の3000〜4000t以下の洪水で河床が動いて新しい砂州が形成され、そこから湧水が作られる環境を作ることができれば、同じように産卵床が形成されることが想定できるという。
具体的な方法はこれから調査・検証していかなくてはならないが、今回の調査を通して新たな道筋が見えたことは大きな前進である。

▲産卵が見つかった周辺では河床に多くのハミ跡が確認された。

なお、年明けから国交省が国道1号線の橋脚の補強工事を予定しており、それに伴い9km〜8km間の砂州の土砂を約30000㎥動かすという。その際に、どこの土砂を動かせば最も多くの湧水を生み出すことができるか、竹門准教授は実際の掘削作業に立ち会って現場を見ながら作業の指導にあたる予定である。今回の、一石二鳥とも言える国土事業の一環として行われる30000㎥規模の大プロジェクトに河川環境的な配慮を加えるという手法は、「今までのそれとは一線を画す新たな可能性に繋がる」(竹門准教授)と期待する。このプロジェクトに関しても追って報告する。